キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

【PICKs】コロナうつ・・・笑えない実態

『News Picks』にコメントしました。

これは一般市民を対象にしたアンケートになります。もうすぐインターネットで1万人規模で厚生労働省主導で行われる予定となっています。

 

おそらくほぼすべての日本国民がストレスを感じていると思いますし、その程度が重い方の割合があぶり出されるものと考えており、その結果は注目されます。

 

医療現場では多くの医療従事者が実際に疲弊している印象があります。日本赤十字社が行った2000人規模の医療従事者へのアンケートでは約3割が「うつ状態」であるとの結果が7月に示されております。

(参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200707/k10012500141000.html

 

世間が経済が困窮している状況は理解しておりますが、常に最前線で働いている医療従事者も、特別に生活が潤っているわけではありません。しかも常に感染リスクと隣り合わせで診療に当たっている上に、世間からの風評被害も多く、実際に疲弊している医療従事者もいることを知っています。

 

なにか医療と経済とをうまく回す良案があれば歓迎したいと思いますし、多くの人が笑顔で過ごせるような日を目指して今日も頑張ります。

【NEJ026】EGFR陽性非小細胞肺癌でのエルロチニブ+ベバシズマブの効果予測因子としての血漿EGFR遺伝子変異

肺癌, 肺癌勉強会, NEJ026, エルロチニブ, ベバシズマブ, タルセバ, アバスチン

『Evaluation of plasma EGFR mutation as an early predictor of response of erlotinib plus bevacizumab treatment in the NEJ026 study』(EBioMedicine 2020;57:102861)より

まとめ

  • 治療開始時に血漿EGFR変異が検出されない症例が無増悪生存期間が延長する

要約

 〇『NEJ026試験』の結果から、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌においてエルロチニブ+ベバシズマブ併用療法は無増悪生存期間が延長することが示された。

〇この『NEJ026試験』では治療開始時(P0)、治療開始6週間後(P1)、病勢増悪時(P2)で血漿サンプルが採取されている。

〇P0時点での血漿サンプルで活性化EGFR遺伝子変異が68%の症例で検出された。

P0時点での血漿サンプルでEGFR遺伝子変異が検出されなかった症例の方が検出された症例よりも無増悪生存期間PFSが延長した(16.9カ月 vs 12.5カ月)。

〇またP0でも、治療開始後のP1でも血漿サンプルでEGFR遺伝子変異が検出された症例はエルロチニブ+ベバシズマブ併用療法でもエルロチニブ単剤療法でもPFSが短かった。

〇また病勢増悪のP2の時点でT790M耐性遺伝子変異陽性の確認できた症例はできなかった症例に比べてPFSが延長する傾向にあった。

キュート先生の視点

昨日紹介した、EGFR陽性非小細胞肺癌に対するエルロチニブ+ベバシズマブ併用療法の効果と安全性を見た『NEJ026試験』の効果予測因子を検討した本研究です。

治療経過の各時点で血漿サンプルでのcirculating tumor DNA(ctDNA)でEGFR変異を確認し、EGFR-TKIの効果との関係を調べた興味深い研究です。

本研究からはそもそも血漿サンプルでEGFRが確認できたら予後不良、そしてEGFRが確認できても6週間後で消え去れば少し予後が期待でき、消えなければ予後不良、と解釈することができます。そして、無増悪生存期間と結びつけることはできませんが、病勢増悪時にT790M耐性遺伝子変異の検出ができた群に予後良好群が多かった、と考えることができます。裏を返せば早期に病勢増悪してしまった症例に関しては、「T790M耐性遺伝子変異」以外の耐性パターンを念頭に置く必要がありそうです。

病状の変化をみながらこの血漿サンプルでEGFRをチェックすることが、実臨床でも症例の予後を先読みする意味で活かせるかもしれません。

【NEJ026】未治療進行EGFR陽性非小細胞肺癌にエルロチニブ+ベバシズマブは無増悪生存期間16.9カ月

f:id:lung-cancer:20200727084146p:plain

『Erlotinib plus bevacizumab versus erlotinib alone in patients with EGFR-positive advanced non-squamous non-small-cell lung cancer (NEJ026): interim analysis of an open-label, randomised, multicentre, phase 3 trial』(Lancet Oncol 2019;20:625)より

まとめ

  • 未治療進行EGFR陽性非小細胞肺癌に対しエルロチニブ+ベバシズマブ併用療法の無増悪生存期間は16.9カ月

要約

 〇EGFR陽性非小細胞肺癌での1次治療で第1,2世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)での治療開始1年程度で多くの症例で耐性を獲得する(効かなくなる)ことが知られている。

〇第2相試験である『JO25567試験』ではEGFR陽性非小細胞肺癌に対し、エルロチニブ単剤治療よりもエルロチニブ+ベバシズマブ併用療法が抗腫瘍効果も高く、毒性も管理可能であることが示された。

〇今回この結果を受けて第3相試験である『NEJ026試験』が行われた。

〇『NEJ026試験』はオープンラベル、無作為化、第3相試験。

〇日本の69施設から登録された。

〇未治療のステージIIIB/IV期のEGFR陽性非小細胞肺癌症例228例が登録され、

 -エルロチニブ+ベバシズマブ群 114例

 -エルロチニブ単剤群 114例

に無作為に振り分けられた。

〇フォローアップ期間の中央値は12.4カ月。

〇主要評価項目である無増悪生存期間PFSは

 -エルロチニブ+ベバシズマブ群:16.9カ月(95%CI:14.2-21.0カ月)

 -エルロチニブ単剤群:13.3カ月(95%CI:11.1-15.3カ月)

でHR 0.605(95%CI:0.417-0.877、p=0.016)であった。

〇グレード3以上の有害事象は

 -エルロチニブ+ベバシズマブ群:88%

 -エルロチニブ単剤群:46%

であり、最も頻度の高い有害事象は皮疹 21%であった。

〇治療関連死亡は認められなかった。

キュート先生の視点

先日行われた『ASCO20 Virtual』で全生存OSの結果も発表されておりますが、フォローアップ期間中央値が39.2カ月で

 -エルロチニブ+ベバシズマブ群:50.7カ月

 -エルロチニブ単剤群:46.2カ月

との結果でした。Lancet Oncology誌に掲載された主要評価項目はPFSであり、実際の論文のFigureを見て頂けると分かりますが、PFSのカプランマイヤー曲線は概ね併用群で上を走っており、各種項目でのサブグループ解析でも併用群に優位な結果となっております。

 

EGFR-TKI+血管新生阻害薬というと、エルロチニブ+ラムシルマブ併用療法の『RELAY試験』、また先日JAMA Oncology誌に掲載されたオシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法の第1,2相試験が頭に浮かびます。患者背景が異なりますので、単純にPFSの比較はできませんがエルロチニブ+ラムシルマブのPFS中央値は19.4カ月、オシメルチニブ+ベバシズマブのPFS中央値は19カ月となっております。

EGFR陽性非小細胞肺癌における臨床試験ではPFSで差がついても、OSで差がつきにくくなってきています。いずれの群でもOSがかなり延長していることや、第3世代EGFR-TKIの登場、後治療でのEGFR-TKI再投与などでOSをそこそこ延ばすことができるからではないかと考えています。

 

EGFR陽性肺がん症例において、実臨床でもやはりここぞという状況においては血管新生阻害薬との併用療法が活きるのではと考えられます。特に脳転移や胸水などの体腔液が目立つ症例には是非検討されたいレジメンです。

【医師の心得1000】製薬企業とも仲良くね

 若い研修医の先生たちにお伝えしたいことを『#医師の心得1000』というハッシュタグでツイートしています。自分の経験も踏まえこのブログでも時々取り上げていきたいと思っています。

 

キュート先生の経験

 

うちの病院でも、午後の時間帯にMRさん達がズラっと並んでいる光景をよく見かけます。新型コロナ感染症拡大下である今でこそこの光景は見られなくなりましたが、大学での医局前はかなり仰々しかったことを覚えています。

 

そんなMRさんに話し掛けられることが「大丈夫な先生」と、いくらヒマでも話し掛けられること自体が「イヤな先生」がいます。わたくしは前者ですが、そんな自分でも時間のない時に話し掛けられることは少しストレスです。忙しい時には歩くスピードをいつもの倍にして、全身から忙しいオーラを出すようにしています。

 

そんなMRさん達ですが、多くの方々はわたくし達と一緒で

 

 病気で苦しむ人を助けたい…

 

という信念のもと、MR活動をしているはずです。一部、自社のクスリの売上のことばかりに躍起になっている方も時折お見掛けしますが、そのような方はすぐに分かってしまいます。

 

やはり「患者さんファースト」の視点で考えている方は、医師でもMRさんでも行動に表れていると思います。どのように自社のクスリを患者さんに活かすことができるかだけでなく、どのような副作用に気をつければよいか、どんな患者さんに最適で、逆にどのような方には不適か‥などを丁寧にプレゼンできる方が評価されます。クスリのメリットしか話してこない方の2回目の面談は無い‥と思っているくらいです。

 

かなり斜め上から目線ですが、時に病気やクスリについて分からないことがあれば一緒に調べてたり、クスリの使いドコロを考えたりして、いかに多くの患者さんに活かすことができるように、と思っています。

 

 だって、共に病気と一緒に戦う仲間なのだから‥。

間質性肺炎のある非小細胞肺がんに対する免疫治療

肺癌, 肺癌勉強会, 間質性肺炎, 免疫関連有害事象

『Association of immune‑related pneumonitis with the presence of preexisting interstitial lung disease in patients with non‑small lung cancer receiving anti‑programmed cell death 1 antibody』(Cancer Immunology, Immunotherapy 2020;69:15)より

まとめ

  • 間質性肺炎のある非小細胞肺癌に対する免疫治療で免疫関連間質性肺炎が発生する頻度は高い。

要約

〇間質性肺炎のある症例に対する抗PD-1抗体の安全性は不透明である。

〇抗PD-1抗体で治療された非小細胞肺癌での、もともとの間質性肺炎の存在と免疫関連間質性肺炎の発症率、画像パターン、効果について後ろ向きに検討した。

〇本研究に331例が登録され、17例でもともとの間質性肺炎を認めた。

もともと間質性肺炎のある症例ではない症例に比較して、肺臓炎を起こす頻度が高かった(29% vs 10%、p=0.027)。

〇間質性肺炎のある症例での肺臓炎は

 -2例(40%)がDADパターン

 -1例(20%)がOPパターン

 -1例(20%)がHPパターン

 -1例(20%)がその他 だった。

〇間質性肺炎がない症例での肺臓炎は

 -19例(61%)がOPパターン

 -8例(26%)がHPパターン

 -3例(10%)がDADパターン

 -1例(3.2%)がその他 だった。

〇抗PD-1抗体投与から肺臓炎が起こるまで、間質性肺炎のある症例では1.3カ月(0.3-2.1カ月)、間質性肺炎のない症例では2.3カ月(0.2-14.6カ月)だった。

〇間質性肺炎のある症例において抗PD-1抗体を使用する際には投与から最初の3カ月は注意深く肺臓炎の発生を観察するべきである。

キュート先生の視点

本研究では抗PD-1抗体を使用した全331例で約11%の免疫関連間質性肺炎を発症し、もともと間質性肺炎の合った症例では29%、なかった症例では9.9%の発症率というデータでした。「既存の間質性肺炎」の存在は肺臓炎になってしまうリスクと有意に関連がありました(ハザード比 4.4 95%CI:1.5-10)。

従来より間質性肺炎合併肺癌に対する薬物治療で最も注意しなければいけない有害事象が間質性肺炎の急性増悪であり、もともと間質性肺炎のある肺癌症例の化学療法による間質性肺炎の増悪率は5-20%、致死率は30-50%と高い割合であることが知られています。

間質性肺炎の中でも特発性肺線維症IPFは化学療法に伴う急性増悪や治療関連死亡の割合が高いことも知られています(JTO 2011;6:1242)。

添付文書上、間質性肺炎を合併する症例に対する投与が推奨されない薬剤としてはイリノテカン、アムルビシン、ゲムシタビンが有名です。また免疫治療においても、添付文書では「慎重投与」に位置付けられておりますので、1次治療を含めフロントラインで間質性肺炎の併存する肺癌症例に積極的に使用することはためらわれる現状があります。

本研究を踏まえ、もし間質性肺炎合併非小細胞肺癌に対し、抗PD-1抗体を使用する際には患者さんや家族への十分な説明と増悪に備えた慎重なフォローが必要であることは言うまでもありません。