キュート先生の『肺癌勉強会』

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【TASUKI-52】ニボルマブの新しいエビデンス! ”NIVO”BCP治療は非扁平上皮非小細胞肺がんの1次治療で無増悪生存期間12.1カ月

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『Nivolumab with carboplatin, paclitaxel, and bevacizumab for first-line treatment of advanced non-squamous non-small cell lung cancer』(Ann Oncol 2021, in press)より

まとめ

”NIVO”BCP治療は非扁平上皮非小細胞肺がんの1次治療でPFS 12.1カ月

要約

〇この『TASUKI-52試験』は国際、無作為化、二重盲検、第3相試験であり、非小細胞肺がんの1次治療でニボルマブ+ベバシズマブ+殺細胞性抗がん剤治療について評価した。

〇2017年6月~2019年7月までの間で、EGFR、ALK、ROS1変異のない未治療IIIB/IV期非扁平上皮非小細胞肺がんの症例を登録した。

〇無作為に1:1で

 -ニボルマブ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ

 -プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ

を3週毎6サイクルまで投与し、ニボルマブまたはプラセボ+ベバシズマブを病勢増悪または受け入れられない毒性が起こるまで継続した。

〇主要評価項目は独立評価委員会が評価した無増悪生存期間とした。

〇日本、韓国、台湾で550例が登録され無作為化された。

〇中央値で13.7カ月のフォローアップ期間で無増悪生存期間の中央値は

 -ニボルマブ群 12.1カ月

 -プラセボ群 8.1カ月

で有意にニボルマブ群が延長(HR 0.56、96.4%CI:0.43-0.71、p<0.0001)した。

〇良好な無増悪生存はPD-L1無発現を含むPD-L1発現率に寄らなかった。

〇奏効率は

 -ニボルマブ群 61.5%

 -プラセボ群 50.5%

であった。

〇グレード3/4の治療関連有害事象は2群間で似通っており、治療関連死はそれぞれ5例、4例であった。

キュート先生の視点

ニボルマブの複合免疫療法で新しいエビデンスが発表されました。アテゾリズマブの複合免疫療法である『IMpower150試験』で有名なアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル治療、通称「ABCP療法」のニボルマブバージョンです。

この『TASUKI-52試験』のDISCUSSION中に「The median PFS of 12.1 months... is the longest median PFS...」と力強く記載されています。論文中のPFSのカプランマイヤー曲線を見て頂けると分かりますが、たしかに最初から通して対照群より上を行っています。

PD-L1発現率別によるPFSでも、<1%、1-49%、≧50%いずれのサブグループでも曲線がクロスすることなく差をつけています。

『IMpower150試験』で特徴的だったEGFRやALKのようなドライバー変異症例は登録されておりませんが、PD-L1発現率や肝転移の有無に寄らずニボルマブ群に点推定値は寄っています。

現状の「肺癌診療ガイドライン」では「ABCP療法」あるいはドライバー変異のある症例に対して『NEJ026試験』の「エルロチニブ+ベバシズマブ療法」以外はベバシズマブを活かすことができるレジメンはありません。血管新生阻害薬は抗癌剤としては補助的な役割ですが、腫瘍縮小効果・血管の正常化・体液貯留や浮腫に対する効果などが言われており、実臨床では効果を実感できる場面を今までも何例も経験してきました。

もちろん既存の「ABPC療法」との使い分けやペムブロリズマブの『KEYNOTE189試験』と比較して決定的な差は見出せませんが、これからのオピニオンリーダーの先生方のコメントも参考にしていきたいと思っています。

ニボルマブ群で273例中5例で治療関連死亡の内訳として、敗血症、胆管炎、発熱性好中球減少、喀血、肺臓炎は気になるところではありますが、ベバシズマブを活かせる新しい複合免疫療法としては期待したいと思っています。

【KEYNOTE799】キイトルーダ!お前もか!局所進行ステージ3非小細胞肺癌に対するケモラジペンブロ!

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『Pembrolizumab Plus Concurrent Chemoradiation Therapy in Patients With Unresectable, Locally Advanced, Stage III Non–Small Cell Lung Cancer -The Phase 2 KEYNOTE-799 Nonrandomized Trial-』(JAMA Oncol 2021, published on Jun. 4)より

まとめ

局所進行ステージIII非小細胞肺がんに対するぺムブロリズマブ+化学放射線療法の奏効率は70%以上

要約

〇局所進行ステージIII非小細胞肺がんにおいてぺムブロリズマブ+化学放射線治療が効果的かどうかを検証した。

〇この『KEYNOTE799試験』は第2相試験、非無作為化、2つのコホート、オープンラベル試験であり、2018年11月~2020年7月まで10か国、52施設から登録した。

〇2つのコホートで301例がスクリーニングされ、216例が過去に未治療、切除不能、組織学的に確定したステージIIIA/IIIB/IIICの非小細胞肺がんとして登録された。

〇「コホートA」は扁平上皮がん・非扁平上皮がんの症例で、

 -カルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200mg/m2)+ぺムブロリズマブ(200mg)を1コース(3週毎)

 →カルボプラチン(AUC2)+パクリタキセル(45mg/m2)を毎週、6週までと、3週毎のぺムブロリズマブ(200mg)を2コースと胸部放射線治療が行われた。

〇「コホートB」は非扁平上皮がんの症例で、

 -シスプラチン(75m/m2)+ペメトレキセド(500mg/m2)+ぺムブロリズマブ(200mg)を3週毎と胸部放射線治療が行われた。

〇いずれのコホートでも追加で14コース、3週間毎のぺムブロリズマブの投与を病勢増悪、許容不可能な有害事象などまで投与された。

〇主要評価項目は独立評価委員による奏効率とグレード3-5の肺臓炎の発生とした。

〇「コホートA」は、112例、58.9%がPD-L1陽性。

〇「コホートB」は、102例、39.2%がPD-L1陽性。

奏効率は

 -コホートA 70.5%

 -コホートB 70.6%

であった。

〇グレード3以上の肺臓炎は8%認められた。

キュート先生の視点

局所進行ステージIII期の非小細胞肺がんに対するぺムブロリズマブ+化学放射線治療の臨床試験結果が発表されました。これは第2相試験であり、比較試験ではありませんが、70%以上の奏効率を認めており期待できそうです。

抗PD-L1抗体であるデュルバルマブの『PACIFIC試験』とは治療レジメンも放射線を照射するタイミングも異なりますが、グレード3以上の肺臓炎も許容範囲内と考えます。

抗PD-1抗体とPD-L1抗体の違いや放射線のタイミングは気になるところですが、今後の第3相試験や長期フォローデータに期待したいと思います。

【Medical Tribune 連載第38回目】小細胞肺がんの二次治療はプラチナ併用で決まり!

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『Platinum-doublet chemotherapy as second-line treatment for relapsed patients with small-cell lung cancer: A systematic review and meta-analysis』(Lung Cancer 2021;156:59)より

医療情報サイト『Medical Tribune』に論文レビューを寄稿しました。

キュート先生の視点

慶應義塾大学呼吸器内科の堀内康平先生による小細胞肺がんの二次治療について、プラチナ製剤を含むレジメンがよいかどうかを検討したシステマチックレビューとメタ解析を取り上げさせて頂きました。

堀内先生は慶應の後輩で、僭越ながらわたくしの教え子でもあります。

彼の着目した内容は大変実臨床に即した論文であり、

ぜひこのブログ『肺癌勉強会』でも紹介したいと思っています。

 

小細胞肺がんの治療を思い描いてみて下さい。

1次治療が終了したあとの経過観察中に病勢増悪してしまった小細胞肺がんです。

肺がん診療に携わる医療者の頭の中では、

 

プラチナ製剤併用化学療法がいいのか…

アムルビシン単剤がいいのか…

ノギテカン単剤がいいのか…

プラチナ製剤といっても、1次治療で使用したレジメンをもう一度試してみる(いわゆるre-challenge)すべきなのか…

イリノテカンとエトポシドを変更したレジメンがいいのか…

増悪が脳転移のみの再発だったら…

 

などと考えていることでしょう。

頭を悩ますことが多いシチュエーションです。

しかも小細胞肺がんの診療に当たっている医療機関であればなおさら頻度の高い状況です。

 

 

今回、論文で検証されている症例は小細胞肺がんの2次治療です。

プラチナ併用化学療法が選択されているのか、それ以外のレジメンで治療されているのかで比較検討した1222例での解析です。

 

論文中の図や表に関しては「Medical Tribune」の方に無理言いまして、分かりやすい図を作って頂きました。いつもありがとうございます。

 

結果は奏効率も病勢コントロール率もプラチナ併用化学療法を選択した群が良好な結果でした。

 

 

もちろん現在の小細胞肺がんの臨床では、免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が一般的に行われており、本研究には反映されていないことは差し引いて考える必要があります。

ただ悩むことの多かった2次治療選択の場面に一石投じる重要な検討であることは評価したいと思っています。

 

堀内先生!いつも勉強になります。これからも宜しくお願い致します。

今度一緒に研究しましょう。講演会も一緒に開催しましょう!

【CodeBreaK100】KRAS G12C変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの奏効率 37.1%

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『Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation』(NEJM 2021, published on Jun. 4)より

まとめ

KRAS G12C変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの奏効率は37.1%

要約

〇ソトラシブは第1相試験においてKRAS pG12C変異のある進行固形がんに対し抗腫瘍効果を示した。

〇特に非小細胞肺がんのサブグループに対しては効果が期待されていた。

〇本研究は単アームの第2相試験であり、過去に標準治療を受けたKRAS pG12C変異のある進行非小細胞肺がん症例に対して1日1回960mg経口投与でソトラシブの効果を調べた。

〇主要評価項目は奏効率(CRとPR)とした。

〇主な副次評価項目は奏功期間、病勢コントロール率、無増悪生存期間、全生存期間、安全性とした。

〇探索的なバイオマーカーはソトラシブによる治療による効果と関連した因子を評価した。

〇126例が登録され、81.0%は過去にプラチナ併用化学療法とPD-1抗体あるいはPD-L1抗体による治療の両方を受けていた。

〇124例がベースラインに評価可能病変があり、効果が評価された。

37.1%(46例)で奏功し、4例がCR、42例がPRであった。

〇奏功期間の中央値は11.1カ月(95%CI:6.9カ月-評価不能)。

〇病勢コントロール率は80.6%(95%CI:72.6-87.2%)。

〇無増悪生存期間の中央値は6.8カ月(95%CI:5.1-8.2カ月)。

〇全生存期間の中央値は12.5カ月(95%CI:10.0カ月-評価不能)。

〇治療関連有害事象は126例中88例(69.8%)に認め、グレード3は19.8%、グレード4は0.8%だった。

〇PD-L1発現率、TMB、他の遺伝子変異(STK11、KEAP1、TP53)によらず効果を示した。

キュート先生の視点

KRAS変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの第2相試験の結果が、現在開催されているASCOでの発表(アブストラクトNo 9003)を受けてNEJMに報告されました。

以前、KRAS変異のある固形がんに対するソトラシブの結果も報告されています。

今回は第2相試験で非小細胞肺がんに絞って検討がなされました。

プラチナや免疫治療後の症例がほとんどを占めているにもかかわらず、奏効率37.1%、病勢コントロール率は80.6%というのは驚異的な結果であったと考えられます。

目新しい有害事象もなく、KRAS変異に対する画期的な薬剤と考えれます。

実臨床で早く活かすことができることを望みます。

▼キュート先生のnote『肺癌診療のキホン』連載中!▼

【UVEA-Brig】ALK阻害薬により既治療のALK陽性転移性非小細胞肺がんに対するブリグチニブのリアルワールドデータ

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『Real-world treatment outcomes with brigatinib in patients with pretreated ALK+ metastatic non-small cell lung cancer』(Lung Cancer 2021;157:9)より

まとめ

ALK阻害薬で既治療のALK陽性転移性非小細胞肺がんにおいて、ブリグチニブは奏効率 39.8%、無増悪生存期間 11.3カ月、全生存期間 23.3カ月

要約

〇次世代ALK阻害薬であるブリグチニブはALK阻害薬で未治療のALK陽性非小細胞肺がんにおいても、クリゾチニブで既治療の症例においても効果が示されている。

〇第2相試験では、クリゾチニブで病勢増悪したALK陽性の転移性非小細胞肺がん症例においてブリグチニブは奏効率 56%、無増悪生存期間の中央値 16.7カ月、全生存期間の中央値 34.1カ月という結果であった。

〇実臨床においてALK阻害薬で治療後のALK陽性転移性非小細胞肺がんに対するブリガチニブの臨床試験『UVEA-Brig試験』のデータを解析した。

〇本研究はイタリア、ノルウェー、スペイン、UKでの後ろ向き研究。

〇ALK陽性転移性非小細胞肺がんで、脳転移のある症例、1つ以上のALK阻害薬に治療抵抗性でありECOG-PS 0-3の症例が含まれる。

〇症例は7日間のブリグチニブ90mgのリードイン期間の後、180mg1日1回投与された。

〇症例は104例で、男性 43%、年齢の中央値 53歳、中枢神経系の転移は63%であった。

〇ブリグチニブによる治療の前に中央値で2ラインの全身性の治療を受けており、37.5%は3ライン以上治療されていた。

〇先行するALK阻害薬による治療はクリゾチニブ 83.6%、セリチニブ 50.0%、アレクチニブ 6.7%、ロルラチニブ 4.8%であった。

〇解析時に77例がブリグチニブによる治療を中止されていた。

〇全症例において、

 -奏効率 39.8%

 -無増悪生存期間 11.3カ月

 -全生存期間 23.3カ月

という結果だった。

〇4例が有害事象が原因でブリグチニブが中止されていた。

〇ブリグチニブ後に53例が全身性の治療を受けており、42例がALK阻害薬を投与されていた。

キュート先生の視点

ブリグチニブでもリアルワールドデータが出ました。

ただ現状の日本のALK陽性非小細胞肺がんに当てはめることができるか、と言われると疑問があります。

ブリグチニブのデータに関しては過去にもブログ『肺癌勉強会』で何回か取り上げさせて頂きました。

現在の『肺癌診療ガイドライン2020』では現時点でALK陽性進行非小細胞肺がんにおいて、ブリグチニブは2次治療以降に位置づけされております。

今後は実臨床に即して、アレクチニブ既治療後のデータが欲しいな…と思っています。