キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

【CheckMate743】待っていました!悪性胸膜中皮腫の1次治療にもニボイピ!

肺癌, 肺癌勉強会, 悪性胸膜中皮腫, ニボルマブ, イピリムマブ, checkmate743

『First-line nivolumab plus ipilimumab in unresectable malignant pleural mesothelioma (CheckMate 743): a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial』(Lancet 2021;397:375)より

まとめ

悪性胸膜中皮腫の1次治療としてニボルマブ+イピリムマブ療法はプラチナ併用化学療法に比較して有意に全生存を延長した。

要約

〇悪性胸膜中皮腫に対する承認された全身治療で生存に寄与する化学療法のレジメンは限られている。

〇非小細胞肺癌の1次治療を含む他癌腫においてニボルマブ+イピリムマブ療法が臨床的に効果を示している。

〇このレジメンが悪性胸膜中皮腫の生存を改善するだろうと仮説を立てた。

〇本研究『CheckMate743試験』はオープンラベル、無作為化、第3相試験であり、21の国の103の病院で行われた。

〇18歳以上、過去に未治療、組織学的に確定された悪性胸膜中皮腫でPS 0-1の症例が適合症例とされた。

〇症例は無作為に1:1で

 -ニボルマブ(3mg/kg、2週間毎)+イピリムマブ(1mg/kg、6週間毎)群

 -プラチナ+ペメトレキセド群

に振り分けられた。

〇主要評価項目は無作為化された全症例で評価された全生存とし、安全性は治療薬を少なくとも1回以上投与された全症例で評価された。

〇2016年11月~2018年4月までに713例が登録され、605例が無作為に

 -ニボルマブ+イピリムマブ群 303例

 -化学療法群 302例

に振り分けられた。

〇77%は男性、年齢の中央値は69歳であった。

〇中間解析時にフォローアップ期間の中央値は29.7カ月であり、ニボルマブ+イピリムマブ群が有意に化学療法群よりも生存期間が延長(18.1カ月 vs 14.1カ月、HR 0.74)した。

〇1年次の生存率は

 -ニボルマブ+イピリムマブ群 68%

 -化学療法群 58%

であり、2年次の生存率は

 -ニボルマブ+イピリムマブ群 41%

 -化学療法群 27%

であった。

〇グレード3-4の治療関連有害事象はニボルマブ+イピリムマブ群で30%、化学療法群で32%に報告された。

〇ニボルマブ+イピリムマブ群で3例が治療関連死となり、肺臓炎、脳炎、心不全であった。

キュート先生の視点

悪性胸膜中皮腫の1次治療にも「ニボイピ療法」が適応となりました。

悪性胸膜中皮腫に対する免疫治療は『MERIT試験』の結果から、本邦でも2次治療以降のニボルマブがすでに実臨床でも使われておりますが、1次治療での適応拡大は大変喜ばしいものと考えます。

特に全症例での全生存期間は1年経過時に68% vs 58%、2年経過時には41% vs 27%と通して差をつけておりますし、特筆すべきは肉腫型や二相型を含む非上皮型の組織型の場合にはさらに63% vs 32%、38% vs 8%と大きく化学療法群に差をつけていることが本文中から読み取れます。

悪性胸膜中皮腫の中でも肉腫型や二相型は、化学療法の効果があまり期待できない組織型として有名です。ですので対照群の効果が乏しいことで、よりこのニボイピ療法が光る結果となりました。

本研究ではPD-L1発現率をDako社の28-8アッセイを使用して1%をカットオフにしてサブグループ解析も行っておりますが、現在の実臨床では悪性胸膜中皮腫に対するPD-L1発現率の測定は承認されておりません。

もともと予後の悪い悪性胸膜中皮腫に新しい治療選択肢、しかも肉腫型や二相型に対する効果的な治療レジメンが承認されたことは大変喜ばしいことと考えて紹介致しました。

【note連載②】肺癌の検査① -組織型を明らかにしよう-

肺癌, 肺癌勉強会, 日本医事新報社

新連載!第2章を公開しました

先月から日本医事新報社さんと協力してnoteで連載を開始しています。

『肺癌診療のキホン-研修医が知っておきたい診療のリアルワールド-』

という題名で肺癌の病態、診断、治療のことなど

かみ砕いて解説しています。

第1回目は『肺癌診療の基礎 -診断から治療まで-』

ということで実際の肺癌症例の紹介と

イメージしにくい実際の肺癌診療の現場をお伝えしました。

第2章では肺癌を診断するための検査、

特に組織型を決めるためにどのような検査を行うのか

組織から遺伝子変異やPD-L1発現率などをどのように調べていくのか

について説明しました。

ぜひ一度読んでみてください!

 

次回の第3章では「病期(ステージ)決定のための検査」

についてお話ししていく予定です。

連載はだいたい3週間ごとを予定しております。

内容は研修医に向けて書いておりますが、

肺癌診療に携わる医療者やコメディカルの方々、

患者さんや患者さんのご家族でも理解できるように書き進めています。

コメントや質問も適宜受け付けております。

これからも宜しくお願い致します。

リアルワールドデータ!2次治療以降オシメルチニブ投与後の間質性肺臓炎

肺癌, 肺癌勉強会, T790M, オシメルチニブ, 間質性肺炎, タグリッソ

『Real-World Evaluation of Factors for Interstitial Lung Disease Incidence and Radiologic Characteristics in Patients With EGFR T790M– positive NSCLC Treated With Osimertinib in Japan』(JTO 2020;15:1893)より

まとめ

過去のニボルマブ投与歴や間質性肺炎のある症例に対するオシメルチニブ投与は間質性肺炎の発症に注意

要約

〇日本のリアルワールドデータにおいてEGFR陽性非小細胞肺がん症例に対する2次治療以降のオシメルチニブの投与によって間質性肺炎を引き起こした症例の特徴を調べた。

〇間質性肺炎を引き起こした画像検査を後ろ向きに解析した。

〇3578例のうち、245例(6.8%)、252回の間質性肺炎のイベントが報告された。

〇オシメルチニブ投与後に間質性肺炎が起こるまでの時間の中央値は63日(5-410日)。

〇間質性肺炎を起こした245例中29例(11.8%)で死亡との報告だった。

〇間質性肺炎の専門家委員会では3578例中231例(6.5%)で間質性肺炎だったとの評価だった。

過去のニボルマブによる治療歴(OR 2.84)と間質性肺炎の既往歴や現病歴(OR 3.51)はオシメルチニブ治療による間質性肺炎の発症と関連していた。

〇過去のニボルマブによる治療を受けていた症例において、オシメルチニブ投与前1か月以内にニボルマブを中止した症例が症例数も割合も高く、ニボルマブによる治療とオシメルチニブの投与の感覚が離れれば間質性肺炎の割合は減少する傾向にあった。

キュート先生の視点

これは肺癌の実臨床において大事な論文。

オシメルチニブの投与によって間質性肺炎を引き起こした症例の約10%は死亡の転帰を辿ってしまうことや、過去にニボルマブによる治療歴のある症例や間質性肺炎の既往のある症例がオシメルチニブの投与によって間質性肺炎を引き起こしてしまうことなどは実臨床でも大事な情報です。

特にニボルマブを含めた免疫治療投与中止後1か月でのオシメルチニブは注意が必要です。

EGFR遺伝子変異を含むドライバー変異陽性例に対する免疫治療はそもそもエビデンスが少なく、現場の臨床の先生の感覚的なところがあります。とはいえ、ドライバー変異陽性の肺癌症例に対して、肺がん治療のキードラッグであります免疫治療を投与しないわけにはいきません。

ドライバー変異陽性の症例では後治療になってもTKIの投与やリチャレンジを行うこともありますので、免疫治療の出番は最後の最後、2ndあたりに強力に1度だけ使って、後は殺細胞性抗癌剤とTKIで最後まで粘る、のような使い方になるのかな、と思っています。多くの先生のご意見をお待ちしております。

【TASUKI-52】ニボルマブの新しいエビデンス! ”NIVO”BCP治療は非扁平上皮非小細胞肺がんの1次治療で無増悪生存期間12.1カ月

肺癌, 肺癌勉強会, ニボルマブ, オプジーボ, TASUKI-52

『Nivolumab with carboplatin, paclitaxel, and bevacizumab for first-line treatment of advanced non-squamous non-small cell lung cancer』(Ann Oncol 2021, in press)より

まとめ

”NIVO”BCP治療は非扁平上皮非小細胞肺がんの1次治療でPFS 12.1カ月

要約

〇この『TASUKI-52試験』は国際、無作為化、二重盲検、第3相試験であり、非小細胞肺がんの1次治療でニボルマブ+ベバシズマブ+殺細胞性抗がん剤治療について評価した。

〇2017年6月~2019年7月までの間で、EGFR、ALK、ROS1変異のない未治療IIIB/IV期非扁平上皮非小細胞肺がんの症例を登録した。

〇無作為に1:1で

 -ニボルマブ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ

 -プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ

を3週毎6サイクルまで投与し、ニボルマブまたはプラセボ+ベバシズマブを病勢増悪または受け入れられない毒性が起こるまで継続した。

〇主要評価項目は独立評価委員会が評価した無増悪生存期間とした。

〇日本、韓国、台湾で550例が登録され無作為化された。

〇中央値で13.7カ月のフォローアップ期間で無増悪生存期間の中央値は

 -ニボルマブ群 12.1カ月

 -プラセボ群 8.1カ月

で有意にニボルマブ群が延長(HR 0.56、96.4%CI:0.43-0.71、p<0.0001)した。

〇良好な無増悪生存はPD-L1無発現を含むPD-L1発現率に寄らなかった。

〇奏効率は

 -ニボルマブ群 61.5%

 -プラセボ群 50.5%

であった。

〇グレード3/4の治療関連有害事象は2群間で似通っており、治療関連死はそれぞれ5例、4例であった。

キュート先生の視点

ニボルマブの複合免疫療法で新しいエビデンスが発表されました。アテゾリズマブの複合免疫療法である『IMpower150試験』で有名なアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル治療、通称「ABCP療法」のニボルマブバージョンです。

この『TASUKI-52試験』のDISCUSSION中に「The median PFS of 12.1 months... is the longest median PFS...」と力強く記載されています。論文中のPFSのカプランマイヤー曲線を見て頂けると分かりますが、たしかに最初から通して対照群より上を行っています。

PD-L1発現率別によるPFSでも、<1%、1-49%、≧50%いずれのサブグループでも曲線がクロスすることなく差をつけています。

『IMpower150試験』で特徴的だったEGFRやALKのようなドライバー変異症例は登録されておりませんが、PD-L1発現率や肝転移の有無に寄らずニボルマブ群に点推定値は寄っています。

現状の「肺癌診療ガイドライン」では「ABCP療法」あるいはドライバー変異のある症例に対して『NEJ026試験』の「エルロチニブ+ベバシズマブ療法」以外はベバシズマブを活かすことができるレジメンはありません。血管新生阻害薬は抗癌剤としては補助的な役割ですが、腫瘍縮小効果・血管の正常化・体液貯留や浮腫に対する効果などが言われており、実臨床では効果を実感できる場面を今までも何例も経験してきました。

もちろん既存の「ABPC療法」との使い分けやペムブロリズマブの『KEYNOTE189試験』と比較して決定的な差は見出せませんが、これからのオピニオンリーダーの先生方のコメントも参考にしていきたいと思っています。

ニボルマブ群で273例中5例で治療関連死亡の内訳として、敗血症、胆管炎、発熱性好中球減少、喀血、肺臓炎は気になるところではありますが、ベバシズマブを活かせる新しい複合免疫療法としては期待したいと思っています。

【KEYNOTE799】キイトルーダ!お前もか!局所進行ステージ3非小細胞肺癌に対するケモラジペンブロ!

肺癌, 肺癌勉強会, KEYNOTE799, ぺムブロリズマブ, Pembrolizumab, キイトルーダ

『Pembrolizumab Plus Concurrent Chemoradiation Therapy in Patients With Unresectable, Locally Advanced, Stage III Non–Small Cell Lung Cancer -The Phase 2 KEYNOTE-799 Nonrandomized Trial-』(JAMA Oncol 2021, published on Jun. 4)より

まとめ

局所進行ステージIII非小細胞肺がんに対するぺムブロリズマブ+化学放射線療法の奏効率は70%以上

要約

〇局所進行ステージIII非小細胞肺がんにおいてぺムブロリズマブ+化学放射線治療が効果的かどうかを検証した。

〇この『KEYNOTE799試験』は第2相試験、非無作為化、2つのコホート、オープンラベル試験であり、2018年11月~2020年7月まで10か国、52施設から登録した。

〇2つのコホートで301例がスクリーニングされ、216例が過去に未治療、切除不能、組織学的に確定したステージIIIA/IIIB/IIICの非小細胞肺がんとして登録された。

〇「コホートA」は扁平上皮がん・非扁平上皮がんの症例で、

 -カルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200mg/m2)+ぺムブロリズマブ(200mg)を1コース(3週毎)

 →カルボプラチン(AUC2)+パクリタキセル(45mg/m2)を毎週、6週までと、3週毎のぺムブロリズマブ(200mg)を2コースと胸部放射線治療が行われた。

〇「コホートB」は非扁平上皮がんの症例で、

 -シスプラチン(75m/m2)+ペメトレキセド(500mg/m2)+ぺムブロリズマブ(200mg)を3週毎と胸部放射線治療が行われた。

〇いずれのコホートでも追加で14コース、3週間毎のぺムブロリズマブの投与を病勢増悪、許容不可能な有害事象などまで投与された。

〇主要評価項目は独立評価委員による奏効率とグレード3-5の肺臓炎の発生とした。

〇「コホートA」は、112例、58.9%がPD-L1陽性。

〇「コホートB」は、102例、39.2%がPD-L1陽性。

奏効率は

 -コホートA 70.5%

 -コホートB 70.6%

であった。

〇グレード3以上の肺臓炎は8%認められた。

キュート先生の視点

局所進行ステージIII期の非小細胞肺がんに対するぺムブロリズマブ+化学放射線治療の臨床試験結果が発表されました。これは第2相試験であり、比較試験ではありませんが、70%以上の奏効率を認めており期待できそうです。

抗PD-L1抗体であるデュルバルマブの『PACIFIC試験』とは治療レジメンも放射線を照射するタイミングも異なりますが、グレード3以上の肺臓炎も許容範囲内と考えます。

抗PD-1抗体とPD-L1抗体の違いや放射線のタイミングは気になるところですが、今後の第3相試験や長期フォローデータに期待したいと思います。