『Low-Dose Erlotinib Treatment in Elderly or Frail Patients With EGFR Mutation–Positive Non–Small Cell Lung Cancer A Multicenter Phase 2 Trial』(JAMA Oncol. doi:10.1001/jamaoncol.2020.1250 Published online May 14, 2020.)より
まとめ
- 単アーム、第2相試験
- フレイルの未治療EGFR陽性非小細胞肺癌 80例
- 導入4週はエルロチニブ50mg/日(状況を見て4週後に増量可)
- 主要評価項目は奏効率ORRで60%
要約
〇EGFR変異陽性非小細胞肺癌の治療として、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の効果は確立されている。しかしながら高齢者やフレイル症例に対する治療としては検討の余地がある。
〇本試験はSouthwest Oncology Group (SWOG)の第2相、単アーム試験
〇日本の21施設から80例のフレイル症例で、未治療EGFR陽性非小細胞肺癌80例を対象
〇導入の4週間はエルロチニブ50mg/日→4週後からは安定している場合に増量可。
〇年齢の中央値:80歳
〇主要評価項目の奏効率ORR:60%(90%CI:50.2-69.2%)
〇病勢コントロール率DCR:90.0%(95%CI:82.7-94.9%)
〇無増悪生存期間PFSの中央値:9.3か月(95%CI:7.2-11.4か月)
〇全生存期間OSの中央値:26.2か月(95%CI:21.9-30.4か月)
〇有害事象で低用量エルロチニブを中断したのは80例中10例、さらに低用量の25mgに減量したのは5例だった。
〇有害事象で2例が中止となったが、間質性肺炎や治療関連死亡は報告されなかった。
キュート先生の視点
現在の『肺癌診療ガイドライン』では、高齢(75歳以上)のドライバー遺伝子変異陽性の1次治療としてそれぞれのキナーゼ阻害薬で治療することを「推奨の強さ1」で推奨しているが、「エビデンスの強さ」としては「C」となっている。
エルロチニブに関しては国内第2相試験においてエルロチニブ単剤治療で75歳超と75歳未満で同等の有効性が示された報告(Lung Cancer 2013;82:109)があるがフレイルには着目していない。
またPS2-4のドライバー変異陽性例の1次治療としてもそれぞれのキナーゼ阻害薬で治療することが推奨されているが、EGFR変異陽性のゲフィチニブ(JCO 2009;27:1394)やALK再構成陽性のアレクチニブ(JTO 2017;12:1161)以外のPS不良例に対するエビデンスが乏しいのが現状である。ゲフィチニブに関しては2009年のJCO誌にPS3-4が大部分の予後不良群を対象に投与され、約80%の症例でPSが改善し、奏効率66%、PFS中央値 6.5カ月と良好な結果が示されたことから、『肺癌診療ガイドライン』でもPS3-4の場合にはゲフィチニブを使用するよう推奨されている。ただし、PS不良例を含め、男性、喫煙歴、既存の間質性肺炎、正常肺が少ない症例、心疾患合併例などでは、薬剤性間質性肺炎の発症リスクが高い(AJRCCM 2008;177:1348, JCO 2006;24:2549)ことも示されており、PS不良例に対する分子標的薬の投与は十分な注意と患者さんへの説明が必要である。
本研究での「フレイル」は年齢、 Charlson Comorbidity Index、ECOGのパフォーマンスステータスにより規定され、しっかり評価されている。今までのエビデンスでは漠然と担当医師による「PS」で評価されており、症例によっては治療機会を逃している可能性が否めない。
過去の研究でも、治療薬の用量を減らすことで毒性の軽減やコストの削減を行いつつ効果が維持できる報告が肺癌においても他癌腫においても散見されている。本研究のDISCUSSIONでも触れられているが、今後、高齢化社会において高齢かつフレイルの肺癌症例が増えることは容易に予想され、そのような症例に対してリスク-ベネフィット、コスト-ベネフィットの面からしっかり治療選択肢を検討する必要がある。治療リスクやコストの観点からも本研究は評価されるべきと考える。
現状、高齢やPS不良のEGFR陽性非小細胞肺癌症例はゲフィチニブ(イレッサ®)での治療開始か、あるいはBSC(Best Supportive Care)の選択肢が一般的なのではないかと推測するが、本研究をもとにEGFR陽性ではあるがフレイルや高齢を理由に治療機会を逃してしまうことがないよう、低用量エルロチニブが治療選択肢の1つになる可能性があるとして紹介させて頂いた。