キュート先生の『肺癌勉強会』

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【PACIFIC, PD-L1発現別】切除不能III期非小細胞肺癌でのPD-L1発現別の効果

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『Outcomes with durvalumab by tumour PD-L1 expression in unresectable, stage III non-small-cell lung cancer in the PACIFIC trial』(Ann Oncol. 2020 Mar 21;S0923-7534(20)36374-2. )より

まとめ

  • 切除不能III期非小細胞肺癌の化学放射線後Durvalumabを投与する『PACIFIC試験』をPD-L1発現別の効果を検討した。
  • PD-L1発現はTC 25%、1%で切って解析した。
  • どのサブグループでもPFSはデュルバルマブ群で有意に延長した。
  • OSに関してもTC<1%群以外はデュルバルマブ群で有意に延長した。

要約

『PACIFIC試験』(NEJM 2018)から切除不能III期非小細胞肺癌に対し、根治的化学放射線療法後にデュルバルマブの1年間の投与がプラセボと比較してPFS、OSのいずれも改善することが知られている。

〇探索的な研究ではあるが、腫瘍のPD-L1発現別にデュルバルマブの治療効果を解析した。

〇『PACIFIC試験』において713例が

 -デュルバルマブ群 473例

 -プラセボ群 236例

にランダムに振り分けられた。

〇そのうち63%にあたる451例でPD-L1発現率が測定可能であり

 -TC≧25% 35%、 TC<25% 65%

 -TC≧1% 67%、 TC<1% 33%

 -TC 1-24% 32%

であった。

〇フォローアップ期間の中央値は33.3カ月。

無増悪生存期間PFSは全ての群でデュルバルマブ群がプラセボ群に比べ有意に延長しており、

 -TC≧25% HR 0.41 17.8カ月 vs 3.7カ月

 -TC<25% HR 0.59 16.9カ月 vs 6.9カ月

 -TC≧1% HR 0.46 17.8カ月 vs 5.6カ月

 -TC<1% HR 0.73 10.7カ月 vs 5.6カ月

 -TC 1-24% HR 0.49 未到達 vs 9.0カ月

 -発現率不明群 HR 0.59 14.0カ月 vs 6.4カ月

の結果であった。

〇全生存期間OSはほとんどの群でデュルバルマブ群がプラセボ群に比べ有意に延長しており

(※は95%CIが1をまたぐ結果)、

 -TC≧25% HR 0.50 未到達 vs 21.1カ月

 -TC<25% HR 0.89 39.7カ月 vs 37.4カ月※

 -TC≧1% HR 0.59 未到達 vs 29.6カ月

 -TC<1% HR 1.14 33.1カ月 vs 45.6カ月※

 -TC 1-24% HR 0.67 43.3カ月 vs 30.5カ月

 -発現率不明群 HR 0.60 44.2カ月 vs 23.5カ月

であった。

キュート先生の視点

現在『PACIFIC試験』の結果を受け、本邦の『肺癌診療ガイドライン』においても、切除不能III期非小細胞肺癌において、根治的放射線照射が可能な場合には同時化学放射線療法後に1年間のデュルバルマブを投与することが一般的に実臨床で行われている。これに関しては「推奨の強さ2」「合意率94%」となっている。

『PACIFIC試験』においてはPD-L1発現率はVENTANA社の『SP263』による免疫組織学的アッセイが用いられており、先に示した2018年の『PACIFIC試験』のOSを示したNEJM誌でもSupplementary Appendixで示され、1%と25%をカットオフにされたとの記載がある。

切除不能III期非小細胞肺癌においてPD-L1発現率はデュルバルマブ使用の可否には影響しないため、そもそも発現率を測定していない施設もあるのであろう。

本研究の結果を見て「治療効果を予測する上でも知りたい情報なので測定したい」と考える医師や患者さんは居るかとも思われるが、実際のところどのような結果であれ、デュルバルマブで長期の無増悪生存や全生存が効果が得られるという解釈でよいと考える。

注意が必要なのは今回のOSのサブグループ解析で有意差が出なかった「TC<25%」や「TC<1%」の症例群であるが、あくまでサブグループ解析なので参考程度に捉えることが大事である。PD-L1発現率が「低発現」や「無発現」であるからと言って、実臨床においてデュルバルマブによる治療機会を逸してしまうことのないようにされたい。