キュート先生の『肺癌勉強会』

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【Oncology Tribune 連載23回目】完全切除後のII/IIIA期非扁平上皮非小細胞肺癌の術後補助化学療法(『JIPANG試験』より)

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『Randomized Phase III Study of Pemetrexed Plus Cisplatin Versus Vinorelbine Plus Cisplatin for Completely Resected Stage II to IIIA Nonsquamous Non–Small-Cell Lung Cancer』(Journal of Clinical Oncology 2020より)

医療情報サイト『Oncology Tribune』に論文レビューを寄稿しました。

キュート先生の視点

 『肺癌診療ガイドライン2019年版』において、完全切除後II/IIIA期非小細胞肺癌(NSCLC)に対する術後化学療法としてシスプラチン(CDDP)併用化学療法が推奨されています(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A、合意率:95%)。これは

  1.  1995年にNSCLC Collaborative Groupにより示された手術単独群と術後補助化学療法群を比較したメタ解析の結果から、CDDP併用による術後補助化学療法が相対死亡リスクを13%減少した(BMJ 1995; 311: 899-909)
  2.  2008年に報告されたメタ解析『LACE試験』でも、CDDP併用による術後補助化学療法が術後生存に対するハザード比(HR)0.89と有意な延命効果を示した(J Clin Oncol 2008; 26: 3552-3559)
  3.  34件の臨床試験における8,447例のメタ解析でも同様の結果(Lancet 2010; 375: 1267-1277)であった

ことから、完全切除後のII/IIIA期NSCLC症例に対してCDDPを含む術後補助化学療法を行うことは、誰しも異論がないところ。

 また、CDDPと併用する薬剤としてビノレルビン(VNR)が選択されることが多く、前述の『LACE試験』におけるCDDP+VNRによる術後補助化学療法のサブグループに限った解析においても、手術療法単独に対するHRが0.80で生存率も顕著に改善していることが示された(J Thorac Oncol 2010; 5: 220-228)ため、現在実臨床では術後補助化学療法としてCDDP+VNRが選択される場合が多いはず。

 IV期非扁平上皮NSCLCの標準化学療法として一般的にはプラチナ製剤に併用する薬剤は有害事象の軽微なペメトレキセド(PEM)が選択されていることが多いが術後治療としてしっかり計画されたPEMのエビデンスはない。

 今回の『JIPANG試験』は、本邦で行われた術後補助化学療法として従来のCDDP+VNR療法とCDDP+PEM療法を比較したオープンラベルの第3相ランダム化比較試験である。

 

 2020年5月現在、術後補助化学療法としてPEMの適応はない。本研究はわが国での第3相試験で非扁平上皮癌(主に腺癌)に限られるが、今後CDDPに併用する薬剤ではPEMがより副作用が低くCDDP+VNR療法に引けを取らない術後補助化学療法として検討されるであろう大事な論文として紹介した。本邦発の臨床試験がJ Clin Oncolのようなトップジャーナルに掲載されることは大変嬉しく思う。

 

 詳細は『Oncology Tribune』に図表と共に掲載されています。