キュート先生の『肺癌勉強会』

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【TERAVOLT】COVID-19と診断された胸部がん200例のレジストリー研究

肺癌, 肺癌勉強会, 新型コロナウイルス, COVID-19

『COVID-19 in patients with thoracic malignancies (TERAVOLT):first results of an international, registry-based, cohort study』(Lancet Oncol 2020 Published Online June 12, 2020)より

まとめ

  • 200例のCOVID-19と診断された胸部がん200例の解析で死亡リスクと関連したのは「喫煙歴」のみだった

要約

〇今までにCOVID-19と診断されたがんに関する報告がなされており、非がん症例と比較して高い死亡率が示されている。

〇胸部がんの症例はがん治療に加え、特に高齢、喫煙歴、心疾患の因子が考えられる。

〇今回、胸部がん症例におけるCOVID-19との関連を検討した。

〇『TERAVOLTレジストリー』は多施設観察研究で、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性胸膜中皮腫、胸腺上皮腫瘍、他の肺の内分泌腫瘍でCOVID-19と診断された症例を登録した。

〇2020/3/26-4/12に8か国(98%がヨーロッパ)で200例の胸部がんでCOVID-19と診断された症例を『TERAVOLTレジストリー』に登録した。

〇年齢の中央値は68歳、72%はECOG-PS 0-1、81%が現喫煙者か過去喫煙者、76%が非小細胞肺がん、15%が小細胞肺がん、74%がIV期のがん、74%がCOVID-19と診断時にがん治療中で、57%が1次治療中だった。

〇76%(152例)が入院加療となり、33%(66例)が死亡した。

〇単変量解析では

 -65歳以上(OR 1.88、95%CI:1.00-3.62)

 -現喫煙または過去喫煙者(OR 4.24、95%CI:1.70-12.95)

 -化学療法単独治療を受けている(OR 2.54、95%CI:1.09-6.11)

 -複数の併存症がある(OR 2.65、95%CI:1.09-7.46)

の因子が死亡リスク増加と関連していた。

多変量解析では「喫煙歴」のみ(OR 3.18、95%CI:1.11-9.06)が死亡リスク増加と関連していた。

キュート先生の視点

この『TERAVOLTレジストリー』は8か国(ほとんどがヨーロッパ)で3月末から短期間で行われたレジストリー研究で200例の肺がん症例が登録されている。ヨーロッパも厳しい状況であったと考えられるが、このがん+COVID-19症例で33%の死亡率は中国や他の過去の報告の死亡率よりもだいぶ高い。本研究が現在の日本の状況に当てはまるかどうかは定かではない。

大事なのは多くの報告で高血圧や虚血性心疾患などの心血管障害が死亡や重症化因子とされていたが、本研究では喫煙歴のみが死亡リスクと関連していたことである。喫煙歴は過去の報告でもなされており、本研究でも多変量解析でも最後まで因子として残っており、やはり喫煙と新型コロナウイルスはかなり相性が悪いことは認めざるを得ない。

DISCUSSIONでも触れられているが、がんを患っているとICUへの入院をためらったり、挿管に関しても検討の余地があり、それも死亡率に関連している可能性があるとされている。

良い情報としては肺癌に対するチロシンキナーゼ阻害薬、抗がん剤、免疫治療などのがん治療はCOVID-19による死亡には影響しなかったことが挙げられる。

このレジストリー研究では74%がIV期の進行がんであったこと、74%がまさしく治療中であったことが死亡率にも関連していると考えられる。

やはりこのCOVID-19パンデミック下でのがん診療はCOVID-19の治療に関しても、がん治療に関しても慎重に検討する必要があり、非がん症例と比較して重症化や死亡リスクを踏まえ治療の選択とともに禁煙の指導(もはや遅いかもしれないが)を行う必要があると考えるが、本研究の死亡率高さからかなり恐ろしいレジストリー研究の結果を読み解いた気がした。