キュート先生の『肺癌勉強会』

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非小細胞肺がんにおける免疫関連間質性肺炎の多施設前向き試験

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『Assessment of Immune-Related Interstitial Lung Disease in Patients With NSCLC Treated with Immune Checkpoint Inhibitors: A Multicenter Prospective Study』(Journal of Thoracic Oncology 2020)より

まとめ

  • 実臨床において非小細胞肺がんに対する抗PD-1抗体での免疫関連間質性肺炎の発症頻度は14.5%。
  • 努力肺活量低下、1秒量低下、mMRCによる呼吸困難があることが免疫関連間質性肺炎のリスクだった。

要約

〇現在、抗PD-1抗体は非小細胞肺がんに対して全生存を改善することから幅広く使用されている。

〇免疫治療による免疫関連有害事象としての間質性肺炎の発症は重篤な有害事象であり、治療中止や死亡に関連する副作用となっている。

〇実臨床の前向き試験での免疫関連間質性肺炎の発症率やリスクファクターは分かっていない。

〇今回、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)として抗PD-1抗体単剤治療が使用された非小細胞肺がん症例138例を登録した。

〇年齢の中央値は69歳(40-83歳)、81.2%が男性、60%が腺癌であった。

〇138例中、20例(14.5%)で中央値51.5日(29-147日)で免疫関連間質性肺炎を発症した。

〇特にグレード3以上の免疫関連間質性肺炎になった8例を含む11例(55%)は60日以内に間質性肺炎となった。

〇肺機能異常、努力肺活量低下、1秒量低下とmMRCで規定される呼吸困難は免疫関連間質性肺炎のリスクファクターだった。

〇努力肺活量低下と1秒量低下のいずれも持っていることもより高い間質性肺炎発症のリスクであった。

〇治療経過で間質性肺炎を起こした症例と起こさなかった症例で全生存の中央値は16.2カ月、14.0カ月で有意差は認めなかった。

キュート先生の視点

この非小細胞肺がんに対する実臨床での免疫治療の間質性肺炎の発症頻度「14.5%」には大変驚きました。過去の臨床研究では「だいたい5%」との認識がありましたので、約3倍の頻度ということとなります。

特に気を付ける必要があるのはグレード3以上の免疫関連間質性肺炎を発症した全症例は60日以内に発症していることです。これは実臨床でも大変活かされるのではと考えます。そして「肺機能異常」「呼吸困難」は間質性肺炎の発症リスクとして挙げられており、実臨床でも免疫治療前に肺機能の評価や意識して呼吸困難の程度を見ることが大変重要になってきます。

免疫関連間質性肺炎の発症頻度は高い反面、グレード3以上の重症度の間質性肺炎に関しては過去の報告とほぼ同等であり、軽症の間質性肺炎を実臨床では拾っている可能性があります。それは実臨床では高齢者やPS不良例に対して免疫治療を行っている可能性や間質性肺炎の有害事象の多い日本人での研究結果であることが考えられます。

過去の研究では免疫関連間質性肺炎の発症リスクとしては、喫煙歴、治療ライン、胸部への放射線照射、非腺癌、アルブミン低値、線維化スコアなどが報告されていますが、この経験を踏まえた実臨床でも、15%と高い発症頻度であったことは個人的には驚きを隠せません。

本研究が複合免疫治療や小細胞肺がん症例には当てはめられませんが、今後、広く免疫治療が行われる実臨床の現場では、肺機能や呼吸困難の自覚症状により注意し、間質性肺炎が起こりやすい症例を慎重に診療していくこととなります。