キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

【医師の心得1000】看護スタッフとも仲良く

 若い研修医の先生たちにお伝えしたいことを『#医師の心得1000』というハッシュタグでツイートしています。自分の経験も踏まえ、このブログでもときどき取り上げていきたいと思っています。

 

キュート先生の経験

自分の過去の経験から2つのエピソードを紹介します。

けちょんけちょんにやられた研修医1年目

わたくしは初期臨床研修を大学病院で行いました。ちょうど従来の研修制度から「初期臨床研修制度」への移行期で、思い起こせば病棟も何だか混乱した状況下にありました。

看護スタッフの皆さまごめんなさい・・・。大学病院の中堅クラスの看護師さんたち・・・、震え上がるほど怖かった思い出があります。

特に医者になりたての4月、5月なんて採血も点滴もできないし、カルテのオーダーもままならないし、クスリもすぐに出せないし、と全く使えないわたくし達はさぞ病棟に迷惑を掛けていたものと思います。

自分の所属する診療科の病棟看護師さんでリーダークラスの田中さん(仮名)によく怒られて、他の研修医なんかは泣かされて、病棟の隅っこでビクビクしていました。

「先生、早く痛み止めだして」

「先生、あの患者さん便が3日出てないから何とかして」

「先生、そこでカルテ書いているとジャマだからあっちで書いて」

 言い返そうにも、こっちも何もできないので、わたくしの口グセは

「はい。すみません。」

「はい。ごめんなさい。」

「はい。申し訳ありません。」

 でした。今でもその名残が・・・。

 

そんなリーダーナース田中の勤務日は隅っこでカルテを書いているわけですが、ちょうどその日にわたくしの患者さんが急変して救急対応が必要な事態になりました。

 

わたくしは患者さんのもとで診察したり、採血をしたり、点滴をとったり・・・するつもりでしたが、状態の悪い患者さんを目の前に採血は失敗、点滴も失敗してアタフタ。

患者さんは徐々に状態が悪くなっていく中、田中さんが反対側で採血、点滴をスパっと取って、

「先生、上の先生、呼んどいたよ!採血と点滴のオーダーよろしく!」

と。いつも恐れて目を合わさないようにしていた人に全面的に助けられ・・・。

 

結局、上級医の先生と看護スタッフのおかげで患者さんも無事回復し、事なきを得ました。

自分は何もできていない。ただそこにいただけ・・・。肩身も狭く、くやしく、そして悲しい思いをしたことを覚えています。

ただその怯えていた田中さんも患者さんを助ける、という意味では医師も看護師も、他の病院に働くスタッフも全員同じ方向を向いている仲間なんだな、と思えた日でした。

 

10年目でガチバトル

呼吸器の診療にも自信がついてきて、一通りの疾患の診断や治療も経験してきた10年目。肺がんの終末期の患者さんのことで、リーダークラスの高橋さん(仮名)と言い争いになることがありました。

わたくしもその患者さんの診療に関しては絶対の自信がありましたので、「患者さんの呼吸困難」に対して対応できているものと思っていました。ただ経験値の高い高橋さんの目からはどうしても患者さんが苦しそうにしている、ということで何とかしたいとの意見。わたくしは酸素も保たれているし、血圧、脈拍、呼吸数もいつもと変動がないし、表情からは苦しそうな素振りはないので、そのまま経過を見ることとしていましたが、高橋さんは少し鎮静や医療用の麻薬を検討する時期ではないか、とのこと。病棟ではおそらくわたくしとそのリーダーナースがバチバチで凍り付いた空気を作り、居心地悪かったものと思います。

詳しくはここには書けませんが、その時も言い争いはほどほどにして、『がん患者さんの呼吸困難』の対応のガイドラインや論文まで引っ張ってきて、その場で一緒に勉強し、お互い理解のもと患者さんの対応に当たりました。

数日後、担当患者さんはお亡くなりになってしまうのですが、最期は安らかに眠っているようで、大変穏やかでした。

お互い「患者さんのために」という信念のもと真剣に診療に当たっているので、ただ単に言い争いをしても全く意味がないことがこの時もとても理解できました。

 

言いたいことは、看護スタッフは、患者さんのために、われわれ医師とともに、一緒に働く仲間なので、お互いの意見を尊重し、時に言い争いになることもあるかと思いますが、患者さんファーストの視点で理解しあえれば、と思う次第です。