キュート先生の『肺癌勉強会』

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【RECOVERY】新型コロナウイルス感染症に対しデキサメタゾンは28日死亡率を減少させる

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『Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 — Preliminary Report』(NEJM, published on July 17, 2020)より

まとめ

  • COVID-19の入院症例においてデキサメタゾンは28日死亡率を低下

要約

〇新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はびまん性の肺障害と関連している。

〇ステロイドは炎症を介した肺障害を調整し、呼吸不全や死亡へ進行することを減らすことができるかもしれない。

〇本研究『RECOVERY試験』はUKの176の医療機関で登録された。

〇COVID-19の入院症例において、症例を無作為に1:2の割合で

 -経口/経静脈的にデキサメタゾン6mg/日を10日間まで投与+標準治療群

 -標準治療単独群

に振り分けた。

〇主要評価項目は28日死亡率とした。

〇2104例がデキサメタゾンが投与され、4321例が標準治療を受けた。

無作為化後28日で

 -デキサメタゾン群:22.9%

 -標準治療群:25.7%

で死亡した(年齢調整比 0.82、95%CI:0.75-0.93、p<0.001)。

〇無作為化を行った時点での呼吸サポートの程度により、群間に死亡率の差があった。

〇無作為時に呼吸サポートの割合は

 -侵襲的人工呼吸器 1007例

 -酸素投与のみ 3883例

 -酸素サポートなし 1535例

であった。

〇侵襲的人工呼吸器で治療されている症例において、デキサメタゾン群は標準治療群に比べて死亡率がより低く(29.3% vs 41.4%, 率比率 0.64、95%CI:0.51-0.81)、人工呼吸器でない酸素投与されている症例においても、デキサメタゾン群が死亡率がより低かった(23.3% vs 26.2%、率比率 0.82、95%CI:0.72-0.94)、しかしながら無作為化時に呼吸サポートを受けていない症例においては差はみられなかった(17.8% vs 14.0%、率比率 1.19、95%CI:0.91-1.55)[Figure2]。

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[Figure2:無作為時の呼吸サポート別 28日までの死亡率]

キュート先生の視点

入院するようなCOVID-19症例に対して全身性ステロイド薬が有効であるというエビデンスが出ました。ただし人工呼吸器や酸素投与が必要な、いわゆる「中等症II以上」の症例に対してより有効性が高いという結果でした。もちろん主要評価項目にあるように、入院するような全症例に対するデキサメタゾン投与が有効であるため、サブグループである酸素投与のない症例に対する解釈はよく考える必要がありますが、本論文のDISCUSSIONでも酸素投与のないような症例に対してはステロイドは害になる可能性があると注意がなされています[Figure3]。

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[Figure3:無作為時の呼吸サポート別 28日死亡率へのデキサメタゾンの影響]

今まで全身性のステロイド投与に関しては、同じコロナウイルスであるMERSウイルスに対するエビデンスで「ウイルスの排出が遷延してしまったこと」や効果が十分に証明されていない、感染を広めるリスクがある、として推奨されていませんでした。

しかしながら実臨床ではCOVID-19と鑑別が難しい器質化肺炎や好酸球性肺炎などの一部の間質性肺炎やCOPD急性増悪に関しては全身性ステロイドの有効性が示されており、そのような症例に対するステロイド投与を制限するものではありません。

また、症例報告レベルではありますが吸入ステロイドであるシクレソニド(オルベスコ®)がCOVID-19の症状を改善させたとして感染症学会に報告されており、現在症例の集積がなされているところです。

 

COVID-19のCT画像でも気管支壁の肥厚のない2次小葉の構造を無視したすりガラス陰影から始まることを考えると、感染初期には気管支炎のない細気管支レベルの間質の炎症や浮腫が疑われますので、細い細気管支レベルの炎症を抑えるpMDI(定量噴霧器)であるシクレソニドがや全身性ステロイドが効果を示す可能性が理解できます。中にはそのような抗炎症治療を行わなくても多くの方が改善するこのCOVID-19ですので、酸素が必要ないような軽症例に対しては、ステロイドは副作用の多い薬剤なので使用する必要はありません。ただ陰影が拡大し、酸素投与が必要になるような症例に対してはデキサメタゾンのような全身性の抗炎症が有効であると考えられます。

 

呼吸器内科医としてはARDSに対する全身性のステロイド、特に急性期のステロイドパルスや短期大量療法はエビデンスがなく、「生存率の改善に寄与できる確立した薬物療法はない」ということが『ARDSガイドライン』でも示されており、相対的副腎不全の予防目的に対する少量ステロイド以外は重症肺炎に対しては使用しない、ということが頭にあるためにこのCOVID-19に対しても全身性ステロイド投与に関しては抵抗があるものと考えます。ただ今回はSARS-CoV-2という個別のウイルス感染症の病態なので、考えを柔軟に改める必要があるかと思います。

 

本論文からCOVID-19に対する全身性ステロイドの有効性が示されましたが、全てのCOVID-19症例にデキサメタゾンが必要なわけではありませんので注意が必要です。若年者、軽症例などには不要ですし、ステロイドは管理を間違えると重篤な副作用がありますので、決して予防のためにステロイドを使用しておこう、のような考え方は絶対間違えていますので注意が必要ということを覚えておいてください。