キュート先生の『肺癌勉強会』

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新型コロナパンデミック状況下によるがん診療や検診の中止で非小細胞肺癌の5年後の死亡は4.8-5.3%増加

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『The impact of the COVID-19 pandemic on cancer deaths due to delays in diagnosis in England, UK: a national, population-based, modelling study』(Lancet Oncology 2020, published Online Jul. 20)より

まとめ

  • イギリスのデータから新型コロナパンデミック状況下によるがん診療や検診の中止で非小細胞肺癌の5年後の死亡は4.8-5.3%増加する

要約

 〇イギリスでは2020年3月に全国的にロックダウンの措置が導入され、COVID-19パンデミックにより「がん検診」は中止、定期的な診療は延期、緊急性のある症例のみが優先された。

〇本研究では4つの主要ながんの診断の遅れががん生存率に及ぼす影響を推定した。

〇2012年1月から12月までに肺癌と診断され、2015年まで追跡データのあるイギリス国民健康サービスがんレジストリーと病院管理データセットを使用した。

〇2020年3月16日時点で、最善から最悪の3つのシナリオを検討し、診断経路の実際の変化を反映し、診断後1,3,5年での生存への影響を推定した。

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[Figure1:3つのシナリオモデル]

 シナリオA:通常診療あるいは救急からの紹介が100%になるシナリオ

 シナリオB:3月16日からの3カ月は通常診療が20%、救急からが100%でその後はいずれも100%に戻るシナリオ

 シナリオC:3月16日から3か月は通常診療が20%、救急から100%、その後3カ月は通常診療から75%、救急診療が100%、その後がいずれも100%に戻るシナリオ

〇非小細胞肺癌は新型コロナウイルスパンデミック前にイギリス国民健康サービスに登録されたがん罹患数は29305例であり

 -救急からの紹介:32.9%

 -通常診療からの紹介:22.3%

 -通常診療からの緊急紹介:31.1%

 -その他:13.7%

といった診断状況であった。

新型コロナウイルスパンデミック後のシナリオで非小細胞肺癌の死亡は

 -シナリオA:1年後 6.0%増加 3年後 5.1%増加 5年後 4.8%増加

 -シナリオB:1年後 7.2%増加 3年後 5.6%増加 5年後 5.1%増加

 -シナリオC:1年後 7.7%増加 3年後 5.8%増加 5年後 5.3%増加

という推定結果となった。

キュート先生の視点

イギリスの状況と本邦の状況はだいぶ異なりますし、厳しいロックダウン政策はとられませんでしたので本研究が日本の現状に当てはめられるとは考えられません。ただ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる検診の中止や延期が原因で、がんの診断が遅れ、結果としてがんによる死亡者数の大幅な増加が予想されました。このことは国を挙げて政策介入が必要である、と本研究では結論付けられています。

本研究では非小細胞肺癌以外にも、乳がん、大腸癌、食道癌でも同様の検討がなされています。

日本でも新型コロナによる影響をデータ化し、このような疫学的な研究が進み、将来的にこれからがんを発症する症例も含め、がん症例が不利益にならないことを望みます。