『Osimertinib in Resected EGFR-Mutated Non–Small-Cell Lung Cancer』(NEJM 2020, published on Sep.19 2020)より
まとめ
- 完全切除後のステージII/IIIAのEGFR陽性非小細胞肺がんにおいてオシメルチニブは無病生存期間を圧倒的に延長する
要約
〇オシメルチニブは未治療のEGFR陽性進行非小細胞肺がんにおいて標準治療となっているが、アジュバント療法としてのオシメルチニブの効果や安全性については分かっていない。
〇本研究は2重盲検、第3相試験、無作為化試験で、完全切除されたEGFR陽性非小細胞肺がん症例を1:1に3年間のオシメルチニブ80mg/日群とプラセボ群に振り分けた。
〇主要評価項目はステージII/IIIA症例の無病生存期間DFS。
〇副次評価項目はステージIB-IIIA全症例での無病生存期間や全生存期間、安全性を含む。
〇症例は682例で、339例がオシメルチニブ群、343例がプラセボ群に振り分けられた。
〇試験登録前に行われた術後アジュバント療法としてのプラチナ併用化学療法に関しては臨床医と患者の間に話し合われて行うことは許可し、術後放射線治療に関しては認めなかった。
〇ステージII-IIIA症例の76%、ステージIB症例の26%で術後アジュバント療法としてのプラチナ併用化学療法が行われた。
〇24カ月の時点で、ステージII/IIIA症例で無病生存割合が
-オシメルチニブ群:90%(95%CI:84-93)
-プラセボ群:44%(95%CI:37-51)
であり病勢増悪あるいは死亡に対するハザード比 0.17(99.06%CI:0.11-0.26、p<0.001)だった[Figure1]。
〇ステージIB-IIIAの全症例で24カ月時点での無病生存割合が
-オシメルチニブ群:89%(95%CI:85-92)
-プラセボ群:52%(95%CI:46-58)
であり病勢増悪あるいは死亡に対するハザード比 0.20(99.12%CI:0.14-0.30、p<0.001)だった。
〇サブグループ解析においても、性別、年齢、喫煙歴、人種、ステージ、EGFR遺伝子変異別、アジュバント化学療法の有無などの各項目でいずれも点推定値はもとより区間推定値も1未満でオシメルチニブ側に寄っていた[Figure2]。
〇24カ月時点でオシメルチニブ群の98%、プラセボ群の85%が生存し、中枢神経系に転移を認めなかった(HR 0.18、95%CI:0.10-0.33)。
〇全生存のデータは未成熟であり、オシメルチニブ群で9例、プラセボ群で20例の合わせて29例の死亡が確認されている。
〇新規の安全性プロファイルの報告はなかった。
キュート先生の視点
現在オンラインで行われている欧州臨床腫瘍学会ESMOの発表を受けてNEJMに論文が掲載されました。このEGFR陽性肺がん症例で術後アジュバントとして使用したオシメルチニブの結果は圧巻です。
本邦の『肺癌診療ガイドライン』ではEGFR陽性非小細胞肺がんのステージIB-IIIA症例で完全切除した後のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬でのアジュバント治療は現時点では勧められていません。
ゲフィチニブでアジュバントとして使用された報告(JCO 2013;31:3320)では生存期間の延長を示すことができず、エルロチニブを使用した『RADIANT試験』(JCO 2015;33:4007)でも無病生存期間は有意差を認めず、OSの延長も示せませんでした。ただし、EGFR陽性症例に限定したサブグループ解析ではエルロチニブ群は対照群と比較し、無病生存期間を延長した(46.4カ月 vs 28.5カ月)ものの生存期間の延長はやはり示せませんでした。
本研究ではステージII/IIIA症例でもIB-IIIA症例でもDFSを有意に延長し、中枢神経系病変においてもオシメルチニブを使用することで約3年間はカプランマイヤー曲線が落ちることなく経過し、サブグループ解析を示したフォレストプロットでも点推定値はもとより区間推定値もオシメルチニブbetterに寄っていますので、文句をつけようがなく今後EGFR陽性非小細胞肺がんの完全切除後のアジュバント療法はオシメルチニブが使用されることと考えられます。
圧倒的で力強いステキなカプランを見せてくれてYi-Long Wu先生、坪井正博先生、加藤晃史先生に感謝したいと思います。