キュート先生の『肺癌勉強会』

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【AURA3, Final】2次治療以降のEGFR陽性非小細胞肺がんでのオシメルチニブは全生存に差がつけられなかった

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『Osimertinib versus platinumepemetrexed for patients with EGFR T790M advanced NSCLC and progression on a prior EGFR-tyrosine kinase inhibitor: AURA3 overall survival analysis』(Ann Oncol 2020;31:1536)より

まとめ

  • 2次治療以降のオシメルチニブでは全生存に差はつかなかった

要約

『AURA3試験』で第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるオシメルチニブ(タグリッソ®)は他のEGFR-TKI治療中に増悪しEGFR T790M耐性遺伝子変異を持った非小細胞肺がんに対して有意に無増悪生存期間を改善させた。

〇今回『AURA3試験』の最終全生存の解析について報告する。

〇本研究において症例は2:1に無作為に

 -オシメルチニブ80mg/日内服

 -カルボプラチン/シスプラチン+ペメトレキセド点滴、3週毎6サイクルまで

に振り分けられた。

〇増悪が認められた場合にはオシメルチニブにクロスオーバーが許容された。

〇全生存と安全性は副次評価項目とされた。

〇279例はオシメルチニブ群、140例(治療されたのは136例)はプラチナ+ペメトレキセド群に振り分けられた。

〇全生存のハザード比 0.87(95%CI:0.67-1.12、p=0.227)であり、全生存期間の中央値は

 -オシメルチニブ群 26.8カ月(95%CI:23.5-31.5)

 -プラチナ+ペメトレキセド群 22.5カ月(95%CI:20.2-28.8)

だった。

〇2年次、3年次の生存割合は

 -55% vs 43%

 -37% vs 30%

だった。

〇最初の後治療までの時間や死亡までの時間から、オシメルチニブは臨床的に意味があると判断された。

〇データカットオフ時までにプラチナ併用群で73%がオシメルチニブにクロスオーバーされ、うち67%が死亡していた。

キュート先生の視点

『AURA3試験』では全生存に差は出ないだろう、と予想していましたがその通りでした。

本研究ではオシメルチニブのクロスオーバーが認められており、対照群でも後治療でオシメルチニブの恩恵を受けることができます。

実臨床でもEGFR陽性非小細胞肺がんの症例はEGFR-TKIを後治療でも内服してもらったり、再投与したりすることがあり、病勢が増悪しても治療を長く引っ張ることがありますのでOSで差をつけることは容易ではないと考えているからです。

現状の「肺癌診療ガイドライン」ではEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん症例に対して1次治療でオシメルチニブを使用することはできますが、第1,2世代EGFR-TKIを使用した後の2次治療以降で使用するためには「T790M耐性遺伝子変異」の検出が必須になっています。

実臨床では1次治療にオシメルチニブが幅広く投与されているものと考えますが、よりその考えは変わらないものとなってきています。

1次治療で使用しなかった場合に、もちろん「T790M」を検出できれば良いのですが、検出できなかった、あるいは検出されない症例はオシメルチニブによる恩恵を受けることができません。

さらに呼吸器内科医を含め再生検を行える時間や人員に余裕があればよいのですが、ただでさえ原発巣の生検や他の肺疾患の検査で気管支鏡やCT生検の枠はほぼ埋まっておりますので、再生検を行う労力は小さな市中病院ではかなりきつい現状があります。

さらに治療中の肺がん症例も検出されるか分からない「T790M」のために、侵襲的な検査を受ける必要があるので、十分な説明と患者さんの覚悟が必要になります。

「T790M」の検出なしでも後治療でオシメルチニブが使用できるようになれば、今後のEGFR陽性非小細胞肺がんの治療ストラテジーの考え方が少し変わってくるような気がしますが、現状は1次治療のオシメルチニブ投与がメリットがありそうです。

EGFR陽性非小細胞肺がんの治療戦略に関してはまた今後も取り上げていきたいと考えています。