キュート先生の『肺癌勉強会』

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【まとめ】非小細胞肺がんの骨転移に対する一般的な治療

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はじめに

肺がん診療で扱う病態はとても幅広く、多くの検査や治療が存在するため、

専門家でもかなり難しくなっていると最近とても感じています。

呼吸器や腫瘍を専門にしている医師でも難しいと感じているのですから、

患者さんや患者さんの家族がご自身で調べたり勉強したりすることは

とてもハードルの高いことと思っています。

 

そこで実際に肺がんと戦っている患者さんや患者さんと近しい方から

相談や質問を受けたことに関して、ブログで時々取り上げることにしました。

なるべく現時点で最新のエビデンスを踏まえたうえで、

誰にでも分かりやすく、かみ砕いて説明を加えるつもりです。

それでもやはり難しいことはあるかと思いますがご理解下さい。

 

今後、不定期にこのような「まとめ」企画を行っていきたいと考えています。

本日は「肺がんの骨転移」についてまとめて、勉強していきます。

 

非小細胞肺がんの骨転移

進行非小細胞肺がんでは骨転移が約30-40%に認められるとされています。

診断は骨転移の全身の広がりに関しては

 -骨シンチグラフィー検査

 -PET-CT検査

で行い、転移している部分でどの程度浸潤しているか、神経を圧迫しているか、

骨を破壊しているか、など細かい評価は

 -CT検査

 -MRI検査

でみていくのが一般的です。

 

日本の研究で259例の非小細胞肺がん患者さんを集めた観察研究では、

観察期間中に30.4%の症例で骨転移を認めたとの報告があります。

その約30%の患者さんのうち、

 -65.7%は治療開始前に評価した段階で骨転移が認められ

 -50%は経過で痛みや骨折などの骨関連事象SREを認めた

との研究結果でした(Lung Cancer 2007;57:229)。

 

骨転移の痛みに対しては放射線治療や鎮痛薬による除痛が

患者さんのQOLを保つために重要になります。

 

骨関連事象skeletal related event(SRE)

骨関連事象SREとは、骨転移に伴う症状や関連する病態のことです。

骨転移による痛みや病的骨折、神経を圧排してしまう症状や

骨を融解することによる高カルシウム血症も含まれます。

 

特に骨転移に伴う症状で一番多いのが「痛み」であり、

痛みは骨転移症例の約80%に見られるとの報告もあるくらいです。

 

非小細胞肺がんの骨転移が起こりやすい好発部位は

脊椎・大腿骨・上腕骨・骨盤になります。

高カルシウム血症は、骨転移による骨破壊以外にも、

がんから分泌される異常なホルモン

PTHrP(副甲状腺ホルモン関連タンパク)によることもあります。

 

骨転移に対する一般的な治療①放射線照射

特に症状のある骨転移に対しては、まず放射線照射が勧められます。

骨転移に対する放射線照射の効果を見た論文(JCO 2007;25:1423)では、

放射線治療により50-80%で痛みの改善効果が得られ、

有害事象の頻度も少なかったとの報告でした。

 

骨転移に対する一般的な治療②手術

骨転移の大きさが2.5cm以上である場合や

負荷のかかる荷重骨において骨皮質の50%以上に破壊が認められる場合に

病的骨折のリスクが高いとされています。

このようなリスクのある骨転移の症例を集めた研究では、

骨転移に対する手術は重篤な合併症がなく、痛みや機能面において

有意な改善が認められたとの報告があります(Clin Orthop Relat Res 2005;438:215)。

 

特に脊髄を圧迫しているような病変のある転移性骨腫瘍に対し、

手術による除圧術+放射線治療を行った群と放射線治療単独群で比べた試験では

治療後の歩行可能だった症例の割合も、歩行を維持できた期間も、

手術+放射線治療群が良好でした(Lancet 2005;366:643)。

 

ただ逆の結果を示す報告も散見され、病勢や予後、患者さんの全身状態を

総合的に判断して集学的な検討を行うことが望ましいとされています。

 

骨転移に対する一般的な治療③薬物治療

薬物治療には「ゾレドロン酸」「デノスマブ」があります。

 

ゾレドロン酸は、骨を壊す過程を抑えて骨量の低下を抑える作用のある

ビスホスホネート製剤の一種です。

乳がんや前立腺がん以外の肺がんを中心とした固形がんによる

骨転移の症例(非小細胞肺がん 50%、小細胞肺がん 8%を含む)を集め、

ゾレドロン酸(ゾメタ®)とプラセボ(偽薬)を比べた臨床試験があります。

この試験では21カ月観察期間時での骨関連事象SREの発生頻度が

 -ゾレドロン酸4mg投与群 38.9%

 -プラセボ群 48.0%

とゾレドロン酸を投与した症例が有意に少なかったことが示されました。

SREの発症時期も2カ月以上遅らせることができました(Cancer 2004;100:2613)。

 

デノスマブ(ランマーク®)は骨の代謝に関わる破骨細胞の形成・機能を促進する

「RANKL(ランクル)」という物質を阻害し、

破骨細胞による骨吸収を抑えることで骨量などを改善させる薬です。

乳がんと前立腺がんを除く進行癌と骨髄腫の症例(非小細胞肺がん 40%を含む)

を集めた臨床試験で、このデノスマブとゾレドロン酸を比べました。

この試験では骨関連事象SREが認められるまでの期間が評価され、

 -デノスマブ群 20.6カ月

 -ゾレドロン酸群 16.3カ月

であり、統計学的に有意な差を認めませんでした(JCO 2011;29:1125)。

以上の結果からデノスマブとゾレドロン酸のSREに対する効果は

臨床的にはほぼ同等と考えられています。

 

以上から、骨転移のある非小細胞肺がんの症例には、

SREの発現率を減らす目的とSREが起こるまでの期間を延長することが

複数の臨床試験で示されているため、ゾレドロン酸やデノスマブが勧められます

 

いずれの薬剤も、基礎研究の時点では抗腫瘍効果が期待されていましたが、

現時点で肺がんの予後を改善した、という明確なデータはありません

今後の臨床試験の結果に期待されるところです。

 

気を付けるべきこと

ゾレドロン酸とデノスマブの重要な有害事象に「顎骨壊死」があります。

顎骨壊死のリスク因子として

 -直近の歯の処置

 -ビスホスホネート製剤の36カ月以上の長期投与

が分かっています(Lancet Oncol 2006;7:508)。

しかもいずれの薬剤でも同等のリスクがあるとの

試験結果(Ann Oncol 2012;23:1341)もあります。

1-2年以上長期にわたって骨転移に対する薬剤を投与し続ける際には、

常に歯科/口腔外科の先生方と一緒に診療に当たることが賢明です。

 

顎骨壊死以外にもビスホスホネート製剤では4%に腎機能障害が認められますし、

デノスマブでも中等度以上の腎機能障害(CCr 30ml/min未満症例)や透析症例は

臨床試験から除外されており慎重投与扱いになっています。

 

デノスマブは投与後の低カルシウム血症が高頻度(10.8%)に起こるため、

カルシウム製剤やビタミンD製剤の内服をしっかり行い、

採血で定期的なカルシウム値の測定が推奨されています。

実際の現場ではデノタス®という飲み薬を一緒に処方することになります。

 

まとめ

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