Impact of antifibrotic therapy on lung cancer development in idiopathic pulmonary fibrosis(Thorax. 2022 Mar 30;thoraxjnl-2021-218281. doi: 10.1136/thoraxjnl-2021-218281. Online ahead of print.)
浜松医大のグループからの報告です。
特発性肺線維症(IPF : ideopathic pulmonary fibrosis)は予後不良な呼吸器疾患であり、肺がん発症のハイリスク群です。IPFでは5-30%に肺がんを合併し、相対リスクは7-14倍で肺がんの独立した危険因子として認識されています。
さらに肺がんはIPF症例において主要な死因のうちの一つです。間質性肺炎の急性増悪、慢性呼吸不全に次ぐ死因として知られています。間質性肺炎を合併する肺がん症例は、抗がん剤や免疫治療の選択肢が限られてしまいますので肺がんの側面から見ても大変戦いにくい合併症の一つと言えるでしょう。
間質性肺炎合併肺がんに対する治療戦略として手術療法のリスク因子や、間質性肺炎の増悪のリスクの低い化学療法はよく検討されていますが、肺がん発症に対する検討は限られています。
今回、浜松医大の直井先生らのグループは345例のIPF症例を後ろ向きに検討し、抗線維化薬の有無で肺がん発症を詳細に見ました。
本研究ではピルフェニドンあるいはニンテダニブの抗線維化薬による治療が行われていた群(189例)と行われなかった群(156例)に分けて解析されました。
抗線維化薬による治療が行われていたIPF症例189例中、肺がん発症した症例は5例(2.6%)、抗線維化薬による治療が行われていなかった156例中、肺がん発症した症例は30例(19.2%)という結果でした。
時間経過を考慮して生存曲線で評価しても、抗線維化薬全体でも、ニンテダニブに限定しても、ピルフェニドンに限定しても肺がん発症を有意に抑える結果が示されました[図1]。
[図1:抗線維化薬による治療の有無での肺がん発症率(上記文献より)]
IPFに対する抗線維化薬は
-肺活量の低下を抑える
-無増悪生存期間を抑える
-間質性肺炎の急性増悪を抑える
など、重要な役割のある薬剤ではありますが、副作用や値段の問題でなかなか症状の乏しい方に勧めることが躊躇われる現実があります。
さらに「肺がん発症を抑えることができる」というデータが加われば間質性肺炎の診療にあたる医療者にとっても、IPF患者さんにとってもメリットがあると考えます。
本研究は後ろ向き研究であり、抗線維化薬が入っていない症例が観察期間も長く、抗線維化薬が一般的に処方される前からのデータも含まれますのでその点は差し引いて考える必要があります。
ただ今後の症例集積も期待されますし、臨床的な意味合いでも大変重要な報告と考えてここに紹介しました。肺がんを抑える基礎的なデータも分かってくるとより興味深いと思います。
浜松医大の先生方、大変示唆に富む研究報告をありがとうございます。