キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

【Oncology Tribune 書評】『最高のがん治療』トンデモ医療情報に免疫をつけるワクチン本

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医療情報サイト『Oncology Tribune』に書評を寄稿しました。

書評

 日本では国民病といわれる「がん」について学校教育で習うことはほとんどありません。そのため、がん患者さんもその家族も含めて、多くの人が「がん」に対する基本的な知識に乏しく、「トンデモ医療」と呼ばれる誤った治療や予防法に振り回されてしまう危険があります。

 

 そこで、医療データ分析の専門家として米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介先生、日本医科大学の勝俣範之先生、米・アラバマ大学バーミングハム校の大須賀覚先生の3人のがん専門家が英知を結集して世に送り出した本が、この

 

『最高のがん治療』(ダイヤモンド社) 

 

です。

 

 本書は医者や研究者でなくてもがんに関する正しい情報を得ることができ、誤った情報にだまされずに済む、いわゆるトンデモ医療情報の免疫をつけるワクチン本です。がん治療に携わる高名な3氏が執筆された科学的根拠に基づいた最も正しいがんの情報本です。がんを患った患者さんやその家族はもちろんのこと、がん診療に関わる医療者も目を通していただきたい1冊です。

 

 

 私も引き続き正しい知識・情報の入手に励み、今後も学会や研究会、さまざまなメディア・SNSを通じた発信を継続していきたいと思わされました。

 

 詳細は『Oncology Tribune』に掲載されています。

今後もがん診療に関連するような書籍に関しては適宜紹介したいと思います。

【NivoCUP】既治療原発不明癌にニボルマブで奏効率24.4%

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 原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た『NivoCUP試験』の結果がASCO2020で近畿大学の谷崎先生から報告されました。Yahooニュースにもトップページで報告されるなど、世間の関心が大きいため、まだ論文化されておりませんがここで紹介致します。

まとめ

  • 原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た第2相試験
  • 原発不明癌56例で既治療45例、未治療11例。
  • ニボルマブは2週毎、52サイクルまで投与。
  • 主要評価項目は奏効率ORR:既治療例24.4%、未治療例9.1%
  • グレード3以上の免疫関連有害事象は5%

要約

〇原発不明癌は予後不良で生存期間の中央値は12カ月未満と言われている。

〇多くの癌腫で免疫チェックポイント阻害薬の効果が示されており、今回原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た第2相試験を行った。

〇原発不明癌の「予後良好群」は除外。

〇種々の検査を行ったうえで原発不明癌と診断された56例で既治療が45例、未治療が11例登録された。

〇ニボルマブ(240mg/body)は2週毎、最大52サイクル、病勢増悪か有害事象で投与できなくなるまで投与された。

〇主要評価項目は独立評価委員会で評価された奏効率ORR

〇副次評価項目は調査者評価の奏効率、無増悪生存期間、全生存期間、安全性とPD-L1発現別の効果の関連について調べた。

主要評価項目の奏効率ORR:既治療例 24.4%、未治療例 9.1%

〇無増悪生存期間PFS:既治療例 5.4カ月、未治療例 3.9カ月

〇全生存期間OS:既治療例 15.1カ月、未治療例 未到達

〇免疫関連有害事象は57%に認められたが、グレード3以上の免疫関連有害事象は5%。

〇頻度の高かった有害事象は皮疹27%、甲状腺機能低下症16%、下痢/腸炎16%で治療関連死は観察されなかった。

キュート先生の視点

肺癌を専門に治療に当たっていると年に数人の「原発不明癌」症例に出会うことだろう。「原発」が「不明」なのだから呼吸器で見なければいけないわけではないが、様々な理由で呼吸器科で扱うことが多い気がする(施設ごとに事情が異なるので違うかもしれない)。

 -全身に腫瘍が転移していて肺にも陰影が多数あるから呼吸器科

 -他科ではBSCの方針であるが呼吸器科で治療選択肢があるだろう

 -気管支鏡やCT生検で診断がつかず結局そのまま呼吸器科で診療する

 -様々な組織学的検査や免疫染色などを行ったが薄くTTF-1が陽性(わずかーーーに肺癌に近い)の腺癌だ

など思い出したらきりがないのであるが、なんだか今まで大学でも今の病院でも「原発不明癌」は「呼吸器」であることが多い気がする。本来は腫瘍内科医が多く病院に居ればよいのだが、がん医療も縦割りの日本ではほとんどの病院に居ない。

今までは何となくプラチナ+タキサン、ゲムシタビン、ビノレルビン、S-1などを使用していたが、冒頭に書いた通り劇的に効果のある治療は数少なく、1年以上戦える症例は稀であると言えよう。

今回の原発不明癌に対して免疫チェックポイント阻害薬を使用、というのは腫瘍と戦っている医師であれば誰しも一度は考えたことだろうが、データも保険適応もないため悔しい思いをしていたことも事実である。そっと保険病名として『進行非小細胞肺癌』とつけて免疫治療を行った症例も…。

本研究は一般的に言われる原発不明癌の「予後良好群」は除外されている。「予後良好群」とは問診、身体所見、採血、画像検査と内視鏡検査、免疫組織化学検査などにより組織型と性別、転移様式から「予後良好群」を抜き出すことができる(『原発不明癌診療ガイドライン 第2版』p34)。そのような「予後良好群」を除外した上で既治療原発不明癌に対してニボルマブを使用し、奏効率が24.4%、無増悪生存期間が5.4カ月というのは驚きの結果である。全生存も15.1カ月であり、1年が厳しかった今までの報告よりは大分検討されたと言ってよいのではないか。今後、論文化がなされ、PD-L1発現率などの詳細な結果が早く知りたいところである。

免疫治療を受けた進行非小細胞肺癌症例でPS2以上は予後不良因子

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『ECOG performance status ≥2 as a prognostic factor in patients with advanced non small cell lung cancer treated with immune checkpoint inhibitors—A systematic review and meta-analysis of real world data』(Lung Cancer 2020;145:95)より

まとめ

  • 免疫チェックポイント阻害薬で治療された非小細胞肺癌の19の論文の検討
  • 3600症例のうちECOG PS1以上は757例
  • PS2以上の症例はOS不良、PFS不良、ORR低下。

要約

〇免疫チェックポイント阻害薬は多くの症例で使用され、その効果も示されている。

〇免疫チェックポイント阻害薬や他の薬剤でも言えることだが、多くの臨床試験ではPS0,1の症例が組み込まれ、PS2以上の症例は除外されていることがほとんどである。

〇進行非小細胞肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬で治療を検討された19の臨床試験をシステマティックレビューとして選び、リアルワールドデータとしてメタ解析を行って検討した。

〇3600例の非小細胞肺癌症例のうち757例(平均して21%)がPS1以上の症例

PS2以上の症例は

 -OS不良(HR 2.72、95%CI:2.03-3.63、I2:72.70%、p<0.001)

 -PFS不良(HR 2.39、95%CI:1.81-3.15、I2:73.03%、p<0.0001)

 -ORR低下(OR 0.25、95%CI:0.11-0.56、I2:0.00%、p=0.001)

だった。

キュート先生の視点

現在、非小細胞肺癌の治療はかなり幅広く免疫チェックポイント阻害薬単剤による治療やプラチナ併用療法に免疫治療を併用する、いわゆる「ケモコンボ」が使用されている。つい5年前までは恐る恐るニボルマブ(オプジーボ®)を投与していたことを考えると、当時は今の多くの症例が外来化学療法室で免疫治療を行っている光景は想像できなかっただろう。

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そのため以前にも高齢者やPS不良症例に対する免疫治療や化学療法、分子標的薬による論文を取り上げたが、実臨床では肺癌は高齢者やPS不良者がもともと多いため、本研究のような報告は大変にありがたい。多くの臨床試験ではPS2以上の「あまり元気ではない」症例はそもそもはじかれているので、実臨床の目の前の「あまり元気ではない」肺癌症例に臨床試験の結果をそのまま当てはめるのは乱暴と言えよう。

殺細胞性化学療法でもPS2以上は予後不良因子と示されている(Eur J Cancer 2010;46:735)が、今回のメタ解析の結果からPS2以上は免疫チェックポイント阻害薬でも効果が期待できない一つの要因ですよ、ということは覚えておかなければいけない。当たり前の結果かもしれないが。

その原因として元気でない症例の免疫の疲弊が関係しているのでは、と考察されているが、免疫学的な機序や分子生物学的な機序に関してはあまり触れられていない。

今回のシステマティックレビューとして取り上げられた論文のうち5報が本邦からの報告で嬉しく思う。それだけ日本では高齢者、PS不良者を治療対象として扱っているのか、それとも幅ひろーーーーく免疫治療を行っているのかは推測の域を脱しないが、そのような症例を我々は扱っているため関心が深いものと考える。

本論文を読んでも、PS2の非小細胞肺癌症例で、殺細胞性抗癌剤はその有害事象から耐えられそうにない、分子標的薬は使い終わった、BSCにするには忍びない、なんてPS2以上の症例に対しては何ら治療の選択には変わりがなく、やはり今後も免疫治療を1度はチャレンジしてみるのだろう、と心の中でコッソリ思う。

【PICKs】感染症指定病院は最後まで

『News Picks』にコメントしました。

感染症指定病院は最後まで

同じ感染症指定病院として非常に共感できるし、その反面で心苦しい記事。

 

最前線の現場で実際に働いている医療従事者が感じている、この恐怖や重圧感が伝わってくる。確かに世間的には新規の感染者は減ってきており、東京都や周囲の3県を除いて緊急事態宣言が解かれている現状においては、重症新型コロナウイルス感染症を受け入れている病院の状況は理解されにくい。

 

感染症指定病院では、今後少数例でも新型コロナが診断されれば今までと同様に受け入れる使命があり、言い換えれば、油断すれば常に自らも感染するリスクと隣り合わせということになる。おそらく高性能のワクチンが開発されるか、画期的な抗ウイルス薬が見つかるまでは我々としては安心して『解除』と感じることはないのであろう。

 

気の向くままに『News Picks』でコメントを残したり、気になる記事をピックしたりしています。

【医師の心得1000】朝の遅刻は気をつけよう

 若い研修医の先生方にお伝えしたいことを『#医師の心得1000』というハッシュタグでツイートしています。時々取り上げたいと思っています。

 

キュート先生の経験

現在、医師16年目ですが、病院での大事な業務に1度だけ大遅刻したことがあります。忘れもしない研修医1年目のお話です。

当時、初期臨床研修が始まって2年目で、わたくしはとある外科で研修をしておりました。遅刻した大事な業務とは「教授外来のサポート」です。

もともと以前から朝は非常に強かったわたくしですが、前日に指導医や病棟チーフの先生方と食事に行くことになり、まぁ大量に飲まされてしまったわけです。単なる言い訳です。お酒もそこそこ強かったわたくしですが、翌日の朝、というかどうやって帰ったかの記憶もありません。

教授外来にわたくしが現れないものですから、指導医や研修指導の先生にまで話が回り、当時持たされていた病院ポケベルは履歴が見られなくなるくらい着信があり、自分の携帯にもひたすら履歴が残っていました。あとからお伺いしましたが、わたくしがどこかで事故に会ったり、行き倒れてしまったのではないか、と指導医の先生はかなり青ざめていらっしゃったようでした。

病院近くのマンションの自室で倒れていたわけですが、気づいたら12:00過ぎ。髪も服もボサボサのまま、教授外来に走って行きました。走って外来に行ったので、脱水と二日酔いが悪化し、さらに外来で倒れるという今では想像しがたい事態になりました。

わたくしにしこたまお酒を飲ませた指導医や病棟チーフは責任を感じたのでしょう。「体調悪いなら今日は帰って休んでいなさい」と鬼のように怖いチーフの先生から優しい言葉を頂いたのをかすかに記憶しております。

 

お伝えしたいことは、研修医も医師であり社会人でもあります。遅刻した日が、大事な手術だったり、外来だったり、時間が決まっている検査だったり、患者さんやご家族との大事な約束だったり、と外せない業務があります。もちろん他の日なら遅刻していいわけではありませんが、医師は直接命に係わる仕事を任されています。以降、次の日に残るような飲み方はせず、時間をきっかり守るように心がけて日常臨床に邁進している、というわたくしの失敗談でした。