キュート先生の『肺癌勉強会』

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【NivoCUP】既治療原発不明癌にニボルマブで奏効率24.4%

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 原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た『NivoCUP試験』の結果がASCO2020で近畿大学の谷崎先生から報告されました。Yahooニュースにもトップページで報告されるなど、世間の関心が大きいため、まだ論文化されておりませんがここで紹介致します。

まとめ

  • 原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た第2相試験
  • 原発不明癌56例で既治療45例、未治療11例。
  • ニボルマブは2週毎、52サイクルまで投与。
  • 主要評価項目は奏効率ORR:既治療例24.4%、未治療例9.1%
  • グレード3以上の免疫関連有害事象は5%

要約

〇原発不明癌は予後不良で生存期間の中央値は12カ月未満と言われている。

〇多くの癌腫で免疫チェックポイント阻害薬の効果が示されており、今回原発不明癌に対するニボルマブの効果を見た第2相試験を行った。

〇原発不明癌の「予後良好群」は除外。

〇種々の検査を行ったうえで原発不明癌と診断された56例で既治療が45例、未治療が11例登録された。

〇ニボルマブ(240mg/body)は2週毎、最大52サイクル、病勢増悪か有害事象で投与できなくなるまで投与された。

〇主要評価項目は独立評価委員会で評価された奏効率ORR

〇副次評価項目は調査者評価の奏効率、無増悪生存期間、全生存期間、安全性とPD-L1発現別の効果の関連について調べた。

主要評価項目の奏効率ORR:既治療例 24.4%、未治療例 9.1%

〇無増悪生存期間PFS:既治療例 5.4カ月、未治療例 3.9カ月

〇全生存期間OS:既治療例 15.1カ月、未治療例 未到達

〇免疫関連有害事象は57%に認められたが、グレード3以上の免疫関連有害事象は5%。

〇頻度の高かった有害事象は皮疹27%、甲状腺機能低下症16%、下痢/腸炎16%で治療関連死は観察されなかった。

キュート先生の視点

肺癌を専門に治療に当たっていると年に数人の「原発不明癌」症例に出会うことだろう。「原発」が「不明」なのだから呼吸器で見なければいけないわけではないが、様々な理由で呼吸器科で扱うことが多い気がする(施設ごとに事情が異なるので違うかもしれない)。

 -全身に腫瘍が転移していて肺にも陰影が多数あるから呼吸器科

 -他科ではBSCの方針であるが呼吸器科で治療選択肢があるだろう

 -気管支鏡やCT生検で診断がつかず結局そのまま呼吸器科で診療する

 -様々な組織学的検査や免疫染色などを行ったが薄くTTF-1が陽性(わずかーーーに肺癌に近い)の腺癌だ

など思い出したらきりがないのであるが、なんだか今まで大学でも今の病院でも「原発不明癌」は「呼吸器」であることが多い気がする。本来は腫瘍内科医が多く病院に居ればよいのだが、がん医療も縦割りの日本ではほとんどの病院に居ない。

今までは何となくプラチナ+タキサン、ゲムシタビン、ビノレルビン、S-1などを使用していたが、冒頭に書いた通り劇的に効果のある治療は数少なく、1年以上戦える症例は稀であると言えよう。

今回の原発不明癌に対して免疫チェックポイント阻害薬を使用、というのは腫瘍と戦っている医師であれば誰しも一度は考えたことだろうが、データも保険適応もないため悔しい思いをしていたことも事実である。そっと保険病名として『進行非小細胞肺癌』とつけて免疫治療を行った症例も…。

本研究は一般的に言われる原発不明癌の「予後良好群」は除外されている。「予後良好群」とは問診、身体所見、採血、画像検査と内視鏡検査、免疫組織化学検査などにより組織型と性別、転移様式から「予後良好群」を抜き出すことができる(『原発不明癌診療ガイドライン 第2版』p34)。そのような「予後良好群」を除外した上で既治療原発不明癌に対してニボルマブを使用し、奏効率が24.4%、無増悪生存期間が5.4カ月というのは驚きの結果である。全生存も15.1カ月であり、1年が厳しかった今までの報告よりは大分検討されたと言ってよいのではないか。今後、論文化がなされ、PD-L1発現率などの詳細な結果が早く知りたいところである。