キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

【Medical Tribune動画】第61回 日本肺癌学会の注目ポイントは?

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医療情報サイト『Medical Tribune』に来週岡山で行われる「第61回 日本肺癌学会学術集会」での見どころについてコメント動画をアップしました。

肺癌学会の注目演題4選

3日間の会期中に行われる演題から4演題をピックアップしました。

プレナリーセッション、ハイライトセッション、インターナショナルシンポジウム、ワークショップからそれぞれ1演題ずつ紹介しています。

 

新しい『肺癌診療ガイドライン』改訂のポイント

毎年、肺癌学会に合わせて『肺癌診療ガイドライン』の改訂が行われることが多いですが、

今年の注目ポイントとして

 -新しいドライバー変異に「MET」が追加

 -「ニボルマブ+イピリムマブ併用療法」の「IOIO」が追加

 -ALK変異陽性肺がんの2次治療に「ブリガチニブ」

 -ROS-1変異陽性肺がんの治療に「エヌトレクチニブ」

 

などが大きな変化として予定されています。

 

肺癌学会全体を通して

演題を見渡してみると、

「AIが開く肺癌診療・・・」とか「AIやビッグデータ解析・・・」と未来を見据えた肺がん診療の在り方についての講演や、「がん教育」に関する特別企画、「新型コロナ」に関連する緊急企画など、「いま」の医療に合致したシンポジウムや企画が盛りだくさんな内容です。

 

教育講演はオンデマンド配信で拝聴することができますし、平日は岡山へ赴くことができない先生方も勉強になるかと思っています。

 

ハッシュタグは「#JLCS20」

今回も学会の「ハッシュタグ」発信していきたいと考えています。

今回のハッシュタグは

 

 #JLCS20

 

でお願いします。

 

コロナ禍でも、オンデマンドでも、学会が盛り上がり、肺がんに関する新しい知見を学ぶことができ、多くの患者さんに還元できることを心から願っています。

【Medical Tribune連載 第34回】免疫チェックポイント阻害薬による治療関連肺臓炎の予測に好酸球は使えるか

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『Association of baseline peripheral-blood eosinophil count with immune checkpoint inhibitor-related pneumonitis and clinical outcomes in patients with non-small cell lung cancer receiving immune checkpoint inhibitors』(Lung Cancer 2020;150:76)より

医療情報サイト『Medical Tribune』に論文レビューを寄稿しました。

免疫関連肺臓炎の発症予測に好酸球が使えちゃうの?

肺がん領域においても免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療が幅広く行われていますが、治療に関連する免疫関連有害事象IrAEには十分注意しなければいけません。

特に、治療に関連する間質性肺臓炎は重篤化する可能性もあるのでがん診療に携わる医療者はいつも慎重に管理しているはずです。

ICI治療前に既存の肺病変がないかどうかをCTで念入りにチェックしたり、採血で間質性肺炎のマーカーとしてKL-6やSP-D値を測定したりしている医療機関は多いと思います。

CTで蜂巣肺を見つけてしまった場合には免疫治療を諦めざるを得ません。

今回、そんな免疫関連有害事象、特に肺臓炎の予測に「好酸球」が使えるかについての論文について読み込みましたのでご一読いただけると嬉しいです。

詳細は『Medical Tribune』に図表と共に掲載されています。

まぢっ?免疫治療って副作用が起こった方が効果が高いの?

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『Multisystem Immune-Related Adverse Events Associated With ImmuneCheckpoint Inhibitors for Treatment of Non–Small Cell Lung Cancer』(JAMA Oncol 2020, Published Oct. 29)より

まとめ

  • 免疫関連有害事象を認めた群が有害事象がなかった群に比べて無増悪生存も全生存も延長

要約

 〇多くのがん種で免疫チェックポイント阻害薬として抗PD-1阻害薬や抗PD-L1阻害薬を使用しているが、様々な免疫関連有害事象が報告されている。

〇本研究では複数の免疫関連有害事象と生存、複数の有害事象を認めるリスクについて検討した。

〇2007年から2019年に5つの施設、623例のステージIII/IV非小細胞肺がんに対して免疫チェックポイント阻害薬単剤あるいは複合免疫療法を施行した症例を後ろ向きに解析した。

〇623症例のうち60%が男性、77%が白人、年齢の中央値が66歳、24%で単一の免疫関連有害事象を認め、9.3%で複数の有害事象を認めた。

〇免疫治療単剤による治療で頻度の高い複数有害事象の組み合わせは

 -肺臓炎+甲状腺炎 14%

 -肝炎+甲状腺炎 10%

 -皮膚炎+肺臓炎 10%

 -皮膚炎+甲状腺炎 8%

であった。

〇PSが良好であることと、免疫チェックポイント阻害薬を長期に使用していることは複数の有害事象を認める独立したリスク因子だった。

単一の有害事象および複数の有害事象と全生存の関連は、有害事象を認めなかった群と比較して

 -HR 0.86(95%CI:0.66-1.12、p=0.26)

 -HR 0.57(95%CI:0.38-0.85、p=0.005)

無増悪生存期間との関連は

 -HR 0.68(95%CI:0.55-0.85、p=0.001)

 -HR 0.39(95%CI:0.28-0.55、p<0.001)

という結果だった。

キュート先生の視点

現在、多くの癌種で免疫治療が幅広く使用されておりますが、非小細胞肺がんにおいても5年ほど前から相当数の症例を経験していることと思います。

題名にも書きましたが、免疫治療によって大きな有害事象を認めた症例で大きな効果を認めることをしばしば経験します。

点滴で補液しなければならないような激しい腸炎の後に腫瘍がほぼCR・・・、黄疸が出るような肝炎+胆管炎の後に腫瘍が消失・・・など。

有害事象が起こっている最中は患者さんの状態から目が離せませんが、治療効果としては期待出来ちゃったりします。

中には有害事象で厳しい転帰を辿ってしまう方がいらっしゃいますので、喜んでも居られないのですが、免疫治療と免疫関連有害事象は今後もセットで考えていく必要があります。

以前に仙台厚生病院の戸井先生がJAMA Oncology誌に同様の報告を行っており、非小細胞肺がんに対する免疫治療において自己抗体を有する方、有害事象を認める方の方が効果が高いコトを示しています。

今回はグローバルでの5施設での研究で、実臨床にも大きく参考になるものとして紹介いたしました。

戸井先生、素晴らしい報告いつもありがとうございます。

『肺癌患者におけるPD-L1検査の手引き』第2.0版 公開

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『肺癌患者におけるPD-L1検査の手引き 第2.0版』

日本肺癌学会バイオマーカー委員会より。

 

『肺癌患者におけるPD-L1検査の手引き 第2.0版』が公開されました。

 

 

主な変更点は

 

■がん免疫治療についての概説を省き、承認状況をまとめて記載した。

■抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験結果を更新し、アテゾリズマブ、デュルバルマブを追加した。

■PD-L1 発現の診断について、PD-L1 の発現には空間的な不均一性があり、経時的に変化することを追記した。e-larning が実際に判定を行う際には有用であることを記載した。22C3、28-8 についての臨床試験データを更新し、SP142 と SP263 の項を新規に追加した。

■PD-L1 測定における課題について、検体の問題、治療介入による変化を追記した。ハーモナイゼーションについて、SP142、SP263 についての言及も行った。

■今後の承認状況が不明であるため第 2.0 版では記載していないが、初回治療アテゾリズマブ、イピリムマブ+ニボルマブの承認に対する適用条件や最適使用推進ガイドライン等が公開された段階で早期に追記を行う。

 

とのことです。お時間のある時に肺癌診療に携わる医療者の方は一読お願いします。

【AURA3, Final】2次治療以降のEGFR陽性非小細胞肺がんでのオシメルチニブは全生存に差がつけられなかった

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『Osimertinib versus platinumepemetrexed for patients with EGFR T790M advanced NSCLC and progression on a prior EGFR-tyrosine kinase inhibitor: AURA3 overall survival analysis』(Ann Oncol 2020;31:1536)より

まとめ

  • 2次治療以降のオシメルチニブでは全生存に差はつかなかった

要約

『AURA3試験』で第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるオシメルチニブ(タグリッソ®)は他のEGFR-TKI治療中に増悪しEGFR T790M耐性遺伝子変異を持った非小細胞肺がんに対して有意に無増悪生存期間を改善させた。

〇今回『AURA3試験』の最終全生存の解析について報告する。

〇本研究において症例は2:1に無作為に

 -オシメルチニブ80mg/日内服

 -カルボプラチン/シスプラチン+ペメトレキセド点滴、3週毎6サイクルまで

に振り分けられた。

〇増悪が認められた場合にはオシメルチニブにクロスオーバーが許容された。

〇全生存と安全性は副次評価項目とされた。

〇279例はオシメルチニブ群、140例(治療されたのは136例)はプラチナ+ペメトレキセド群に振り分けられた。

〇全生存のハザード比 0.87(95%CI:0.67-1.12、p=0.227)であり、全生存期間の中央値は

 -オシメルチニブ群 26.8カ月(95%CI:23.5-31.5)

 -プラチナ+ペメトレキセド群 22.5カ月(95%CI:20.2-28.8)

だった。

〇2年次、3年次の生存割合は

 -55% vs 43%

 -37% vs 30%

だった。

〇最初の後治療までの時間や死亡までの時間から、オシメルチニブは臨床的に意味があると判断された。

〇データカットオフ時までにプラチナ併用群で73%がオシメルチニブにクロスオーバーされ、うち67%が死亡していた。

キュート先生の視点

『AURA3試験』では全生存に差は出ないだろう、と予想していましたがその通りでした。

本研究ではオシメルチニブのクロスオーバーが認められており、対照群でも後治療でオシメルチニブの恩恵を受けることができます。

実臨床でもEGFR陽性非小細胞肺がんの症例はEGFR-TKIを後治療でも内服してもらったり、再投与したりすることがあり、病勢が増悪しても治療を長く引っ張ることがありますのでOSで差をつけることは容易ではないと考えているからです。

現状の「肺癌診療ガイドライン」ではEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん症例に対して1次治療でオシメルチニブを使用することはできますが、第1,2世代EGFR-TKIを使用した後の2次治療以降で使用するためには「T790M耐性遺伝子変異」の検出が必須になっています。

実臨床では1次治療にオシメルチニブが幅広く投与されているものと考えますが、よりその考えは変わらないものとなってきています。

1次治療で使用しなかった場合に、もちろん「T790M」を検出できれば良いのですが、検出できなかった、あるいは検出されない症例はオシメルチニブによる恩恵を受けることができません。

さらに呼吸器内科医を含め再生検を行える時間や人員に余裕があればよいのですが、ただでさえ原発巣の生検や他の肺疾患の検査で気管支鏡やCT生検の枠はほぼ埋まっておりますので、再生検を行う労力は小さな市中病院ではかなりきつい現状があります。

さらに治療中の肺がん症例も検出されるか分からない「T790M」のために、侵襲的な検査を受ける必要があるので、十分な説明と患者さんの覚悟が必要になります。

「T790M」の検出なしでも後治療でオシメルチニブが使用できるようになれば、今後のEGFR陽性非小細胞肺がんの治療ストラテジーの考え方が少し変わってくるような気がしますが、現状は1次治療のオシメルチニブ投与がメリットがありそうです。

EGFR陽性非小細胞肺がんの治療戦略に関してはまた今後も取り上げていきたいと考えています。