キュート先生の『肺癌勉強会』

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【Medical Tribune 連載第38回目】小細胞肺がんの二次治療はプラチナ併用で決まり!

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『Platinum-doublet chemotherapy as second-line treatment for relapsed patients with small-cell lung cancer: A systematic review and meta-analysis』(Lung Cancer 2021;156:59)より

医療情報サイト『Medical Tribune』に論文レビューを寄稿しました。

キュート先生の視点

慶應義塾大学呼吸器内科の堀内康平先生による小細胞肺がんの二次治療について、プラチナ製剤を含むレジメンがよいかどうかを検討したシステマチックレビューとメタ解析を取り上げさせて頂きました。

堀内先生は慶應の後輩で、僭越ながらわたくしの教え子でもあります。

彼の着目した内容は大変実臨床に即した論文であり、

ぜひこのブログ『肺癌勉強会』でも紹介したいと思っています。

 

小細胞肺がんの治療を思い描いてみて下さい。

1次治療が終了したあとの経過観察中に病勢増悪してしまった小細胞肺がんです。

肺がん診療に携わる医療者の頭の中では、

 

プラチナ製剤併用化学療法がいいのか…

アムルビシン単剤がいいのか…

ノギテカン単剤がいいのか…

プラチナ製剤といっても、1次治療で使用したレジメンをもう一度試してみる(いわゆるre-challenge)すべきなのか…

イリノテカンとエトポシドを変更したレジメンがいいのか…

増悪が脳転移のみの再発だったら…

 

などと考えていることでしょう。

頭を悩ますことが多いシチュエーションです。

しかも小細胞肺がんの診療に当たっている医療機関であればなおさら頻度の高い状況です。

 

 

今回、論文で検証されている症例は小細胞肺がんの2次治療です。

プラチナ併用化学療法が選択されているのか、それ以外のレジメンで治療されているのかで比較検討した1222例での解析です。

 

論文中の図や表に関しては「Medical Tribune」の方に無理言いまして、分かりやすい図を作って頂きました。いつもありがとうございます。

 

結果は奏効率も病勢コントロール率もプラチナ併用化学療法を選択した群が良好な結果でした。

 

 

もちろん現在の小細胞肺がんの臨床では、免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が一般的に行われており、本研究には反映されていないことは差し引いて考える必要があります。

ただ悩むことの多かった2次治療選択の場面に一石投じる重要な検討であることは評価したいと思っています。

 

堀内先生!いつも勉強になります。これからも宜しくお願い致します。

今度一緒に研究しましょう。講演会も一緒に開催しましょう!

【CodeBreaK100】KRAS G12C変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの奏効率 37.1%

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『Sotorasib for Lung Cancers with KRAS p.G12C Mutation』(NEJM 2021, published on Jun. 4)より

まとめ

KRAS G12C変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの奏効率は37.1%

要約

〇ソトラシブは第1相試験においてKRAS pG12C変異のある進行固形がんに対し抗腫瘍効果を示した。

〇特に非小細胞肺がんのサブグループに対しては効果が期待されていた。

〇本研究は単アームの第2相試験であり、過去に標準治療を受けたKRAS pG12C変異のある進行非小細胞肺がん症例に対して1日1回960mg経口投与でソトラシブの効果を調べた。

〇主要評価項目は奏効率(CRとPR)とした。

〇主な副次評価項目は奏功期間、病勢コントロール率、無増悪生存期間、全生存期間、安全性とした。

〇探索的なバイオマーカーはソトラシブによる治療による効果と関連した因子を評価した。

〇126例が登録され、81.0%は過去にプラチナ併用化学療法とPD-1抗体あるいはPD-L1抗体による治療の両方を受けていた。

〇124例がベースラインに評価可能病変があり、効果が評価された。

37.1%(46例)で奏功し、4例がCR、42例がPRであった。

〇奏功期間の中央値は11.1カ月(95%CI:6.9カ月-評価不能)。

〇病勢コントロール率は80.6%(95%CI:72.6-87.2%)。

〇無増悪生存期間の中央値は6.8カ月(95%CI:5.1-8.2カ月)。

〇全生存期間の中央値は12.5カ月(95%CI:10.0カ月-評価不能)。

〇治療関連有害事象は126例中88例(69.8%)に認め、グレード3は19.8%、グレード4は0.8%だった。

〇PD-L1発現率、TMB、他の遺伝子変異(STK11、KEAP1、TP53)によらず効果を示した。

キュート先生の視点

KRAS変異のある非小細胞肺がんに対するソトラシブの第2相試験の結果が、現在開催されているASCOでの発表(アブストラクトNo 9003)を受けてNEJMに報告されました。

以前、KRAS変異のある固形がんに対するソトラシブの結果も報告されています。

今回は第2相試験で非小細胞肺がんに絞って検討がなされました。

プラチナや免疫治療後の症例がほとんどを占めているにもかかわらず、奏効率37.1%、病勢コントロール率は80.6%というのは驚異的な結果であったと考えられます。

目新しい有害事象もなく、KRAS変異に対する画期的な薬剤と考えれます。

実臨床で早く活かすことができることを望みます。

▼キュート先生のnote『肺癌診療のキホン』連載中!▼

【UVEA-Brig】ALK阻害薬により既治療のALK陽性転移性非小細胞肺がんに対するブリグチニブのリアルワールドデータ

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『Real-world treatment outcomes with brigatinib in patients with pretreated ALK+ metastatic non-small cell lung cancer』(Lung Cancer 2021;157:9)より

まとめ

ALK阻害薬で既治療のALK陽性転移性非小細胞肺がんにおいて、ブリグチニブは奏効率 39.8%、無増悪生存期間 11.3カ月、全生存期間 23.3カ月

要約

〇次世代ALK阻害薬であるブリグチニブはALK阻害薬で未治療のALK陽性非小細胞肺がんにおいても、クリゾチニブで既治療の症例においても効果が示されている。

〇第2相試験では、クリゾチニブで病勢増悪したALK陽性の転移性非小細胞肺がん症例においてブリグチニブは奏効率 56%、無増悪生存期間の中央値 16.7カ月、全生存期間の中央値 34.1カ月という結果であった。

〇実臨床においてALK阻害薬で治療後のALK陽性転移性非小細胞肺がんに対するブリガチニブの臨床試験『UVEA-Brig試験』のデータを解析した。

〇本研究はイタリア、ノルウェー、スペイン、UKでの後ろ向き研究。

〇ALK陽性転移性非小細胞肺がんで、脳転移のある症例、1つ以上のALK阻害薬に治療抵抗性でありECOG-PS 0-3の症例が含まれる。

〇症例は7日間のブリグチニブ90mgのリードイン期間の後、180mg1日1回投与された。

〇症例は104例で、男性 43%、年齢の中央値 53歳、中枢神経系の転移は63%であった。

〇ブリグチニブによる治療の前に中央値で2ラインの全身性の治療を受けており、37.5%は3ライン以上治療されていた。

〇先行するALK阻害薬による治療はクリゾチニブ 83.6%、セリチニブ 50.0%、アレクチニブ 6.7%、ロルラチニブ 4.8%であった。

〇解析時に77例がブリグチニブによる治療を中止されていた。

〇全症例において、

 -奏効率 39.8%

 -無増悪生存期間 11.3カ月

 -全生存期間 23.3カ月

という結果だった。

〇4例が有害事象が原因でブリグチニブが中止されていた。

〇ブリグチニブ後に53例が全身性の治療を受けており、42例がALK阻害薬を投与されていた。

キュート先生の視点

ブリグチニブでもリアルワールドデータが出ました。

ただ現状の日本のALK陽性非小細胞肺がんに当てはめることができるか、と言われると疑問があります。

ブリグチニブのデータに関しては過去にもブログ『肺癌勉強会』で何回か取り上げさせて頂きました。

現在の『肺癌診療ガイドライン2020』では現時点でALK陽性進行非小細胞肺がんにおいて、ブリグチニブは2次治療以降に位置づけされております。

今後は実臨床に即して、アレクチニブ既治療後のデータが欲しいな…と思っています。

PD-L1 90-100%の超高発現群はぺムブロリズマブの奏効率・無増悪生存期間・全生存期間が良好

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『Outcomes to first-line pembrolizumab in patients with non-small-cell lung cancer and very high PD-L1 expression』(Ann Oncol 2019;30:1653)より

まとめ

  • PD-L1発現率90-100%の超高発現群は50-89%の群と比較して奏効率、無増悪生存期間、全生存期間が有意に良好

要約

〇PD-L1発現率50%以上の非小細胞肺がんにおいて、1次治療のぺムブロリズマブは従来のプラチナ併用化学療法と比較して生存を改善させることが分かっている。

〇発現率50-100%の範囲の中でよりPD-L1発現レベルの高い腫瘍に対してぺムブロリズマブが効果的かどうかは分かっていない。

〇本研究は後ろ向き、多施設研究で、PD-L1発現率と奏効率、無増悪生存期間、全生存期間を解析した。

〇187例の1次治療でぺムブロリズマブで加療された症例を解析し、

 -奏効率 44.4%

 -無増悪生存期間の中央値 6.5カ月

 -全生存期間の中央値 未到達

という結果だった。

〇ぺムブロリズマブで奏功が得られた症例のPD-L1発現率の中央値は、不変から病勢増悪となった症例の発現率と比較して有意に高かった(90% vs 75%、p<0.001)。

〇PD-L1発現率50-89%の症例(107例)と比較して、90-100%の症例(80例)は、

 -奏効率 60.0% vs 32.7%(p<0.001)

 -無増悪生存期間 14.5カ月 vs 4.1カ月(HR 0.50、95%CI:0.33-0.74、p<0.01)

 -全生存期間 未到達 vs 15.9カ月(HR 0.39、95%CI:0.21-0.70、p=0.002)

と90-100%の超高発現群の方が有意に延長した。

キュート先生の視点

2年前の報告でしたが実臨床で気になったので取り上げてみました。

実臨床でもうすうす多くの方が実感しているところではないかと思っていますが、PD-L1発現率がより高い症例の方が、ぺムブロリズマブを含めた免疫治療の効果が高いのではないか、と言うことです。

本研究は後ろ向き試験ですし症例も189例と限られておりますが、PD-L1が90-100%では相当な効果が期待できるものと考えられます。

ただし気をつけなければいけないのが、PD-L1発現率が低発現であっても、場合によっては無発現であっても長期に効果を示す症例が一定数おります。実際の現場でも長期に生存している方もいらっしゃいますので、PD-L1発現率だけで免疫治療の選択肢を諦めてしまうことのないように…と思っております。

【note連載①】肺癌診療の基礎 -診断~治療まで-

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新連載開始しました!

日本医事新報社と協力してnoteで連載を開始しました。

『肺癌診療のキホン-研修医が知っておきたい診療のリアルワールド-』

という題名で肺癌の病態、診断、治療のことなど

かみ砕いて解説していきます。

内容は研修医でも理解できるレベルに設定しておりますが、

肺がん診療に携わる医療者、コメディカルの方々、

患者さんや患者さんのご家族でも読めるかと思います。

第1回目は『肺癌診療の基礎 -診断から治療まで-』

ということで2例の実際の肺癌症例を紹介し、

イメージしにくい実際の肺癌診療の現場をお伝えします。

ぜひ一度読んでみてください!

次回は検査や診断のことをもっと掘り下げてお話ししていく予定です。

連載はだいたい3週間ごとを予定しております。