キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

PD-L1 90-100%の超高発現群はぺムブロリズマブの奏効率・無増悪生存期間・全生存期間が良好

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『Outcomes to first-line pembrolizumab in patients with non-small-cell lung cancer and very high PD-L1 expression』(Ann Oncol 2019;30:1653)より

まとめ

  • PD-L1発現率90-100%の超高発現群は50-89%の群と比較して奏効率、無増悪生存期間、全生存期間が有意に良好

要約

〇PD-L1発現率50%以上の非小細胞肺がんにおいて、1次治療のぺムブロリズマブは従来のプラチナ併用化学療法と比較して生存を改善させることが分かっている。

〇発現率50-100%の範囲の中でよりPD-L1発現レベルの高い腫瘍に対してぺムブロリズマブが効果的かどうかは分かっていない。

〇本研究は後ろ向き、多施設研究で、PD-L1発現率と奏効率、無増悪生存期間、全生存期間を解析した。

〇187例の1次治療でぺムブロリズマブで加療された症例を解析し、

 -奏効率 44.4%

 -無増悪生存期間の中央値 6.5カ月

 -全生存期間の中央値 未到達

という結果だった。

〇ぺムブロリズマブで奏功が得られた症例のPD-L1発現率の中央値は、不変から病勢増悪となった症例の発現率と比較して有意に高かった(90% vs 75%、p<0.001)。

〇PD-L1発現率50-89%の症例(107例)と比較して、90-100%の症例(80例)は、

 -奏効率 60.0% vs 32.7%(p<0.001)

 -無増悪生存期間 14.5カ月 vs 4.1カ月(HR 0.50、95%CI:0.33-0.74、p<0.01)

 -全生存期間 未到達 vs 15.9カ月(HR 0.39、95%CI:0.21-0.70、p=0.002)

と90-100%の超高発現群の方が有意に延長した。

キュート先生の視点

2年前の報告でしたが実臨床で気になったので取り上げてみました。

実臨床でもうすうす多くの方が実感しているところではないかと思っていますが、PD-L1発現率がより高い症例の方が、ぺムブロリズマブを含めた免疫治療の効果が高いのではないか、と言うことです。

本研究は後ろ向き試験ですし症例も189例と限られておりますが、PD-L1が90-100%では相当な効果が期待できるものと考えられます。

ただし気をつけなければいけないのが、PD-L1発現率が低発現であっても、場合によっては無発現であっても長期に効果を示す症例が一定数おります。実際の現場でも長期に生存している方もいらっしゃいますので、PD-L1発現率だけで免疫治療の選択肢を諦めてしまうことのないように…と思っております。

【note連載①】肺癌診療の基礎 -診断~治療まで-

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新連載開始しました!

日本医事新報社と協力してnoteで連載を開始しました。

『肺癌診療のキホン-研修医が知っておきたい診療のリアルワールド-』

という題名で肺癌の病態、診断、治療のことなど

かみ砕いて解説していきます。

内容は研修医でも理解できるレベルに設定しておりますが、

肺がん診療に携わる医療者、コメディカルの方々、

患者さんや患者さんのご家族でも読めるかと思います。

第1回目は『肺癌診療の基礎 -診断から治療まで-』

ということで2例の実際の肺癌症例を紹介し、

イメージしにくい実際の肺癌診療の現場をお伝えします。

ぜひ一度読んでみてください!

次回は検査や診断のことをもっと掘り下げてお話ししていく予定です。

連載はだいたい3週間ごとを予定しております。

【Medical Tribune 連載第37回目】PD-L1高発現ってEGFR陽性肺がんでは予後不良因子?

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『Relationship between PD-L1 expression and outcome in EGFR-mutant lung cancer patients treated with EGFR tyrosine kinase inhibitors』(Lung Cancer 2021;155:28)より

医療情報サイト『Medical Tribune』に論文レビューを寄稿しました。

キュート先生の視点

この研究はオーストラリアからの報告で、

EGFR遺伝子変異の有無とPD-L1 TPS(発現率)の関係について検討した研究です。

実臨床では肺がんの診断時にPD-L1 TPSとドライバー遺伝子変異について

確認することが一般的です。

ドライバー遺伝子変異が陽性であればPD-L1発現率は

あまり気にしないことが多いかと思います。

この研究ではPD-L1 TPS 50%以上群は49%以下群に比べて

EGFR-TKIによる無増悪生存期間も全生存期間も短かったという結果。

つまり、

 EGFR陽性非小細胞肺がんではPD-L1 TPS高発現は予後不良因子

と言い換えることができます。

現在、EGFR変異陽性非小細胞肺がんの一次治療において

第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは本研究では使用されていません。

一次治療でのオシメルチニブの効果を検討した第Ⅲ相試験FLAURAでは、

PD-L1陽性例(1%以上)と陰性例でPFSは同等の結果であり、

3.6%に認めたとされるPD-L1高発現例での効果は発表されていません。

今回の臨床試験は2013~19年の症例での解析であり、

 

 ①第三世代EGFR-TKIが含まれていない

 ②日本でPD-L1の解析に用いられることの多い「22C3」でなく「SP263」で評価されている

 ③EGFR-TKI増悪後の解析では24例と少数例である

 

などの点から現状に全てを当てはめられない研究ではあります。

やはりドライバー遺伝子変異が陽性である場合には

PD-L1が高発現であったとしても、もちろん第一選択はキナーゼ阻害薬であり、

当然ではありますが免疫治療ファーストではいけません。

【新連載開始!】『キュート先生が教える!肺癌診療のキホン』note連載のご報告

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新連載開始!『キュート先生が教える!肺癌診療のキホン』

ご報告です。

このたび、日本医事新報社さんと協力して

noteで「肺がん」についての連載を開始します。

わたくしの肺がん診療の経験や知識が

多くの方の役に立つものと考えて企画しました。

題名は・・・

 キュート先生が教える!肺癌診療のキホン

 -研修医が知っておきたい診療のリアルワールド-

となっております。

読者対象は研修医の先生に向けて

内容は研修医の先生や呼吸器科を目指す若い先生向けではありますが、

トピックによっては肺がん診療に携わる医療者の皆さまや

肺がん患者さんや患者さんの家族にもお役に立つ内容かもしれません。

このnote連載が実際の肺がん診療の助けになることを願っています。

 

実際の肺がんの医療現場で行われている検査や治療に沿って

お話を進めていく予定で考えています。

もちろん最新のガイドラインやエビデンスを踏まえて解説します。

連載は現時点では3週間ごとの全11回を予定しています。

全て書き終わった時点で書籍化も考えています。

 

おねがい ハッシュタグ「#キュートnote」

もしこのnote連載『肺癌診療のキホン』に共感・ご理解頂けましたら

ぜひ紹介や拡散のほど、宜しくお願い致します。

ハッシュタグ「#キュートnote」をつけて頂ければ

このブログ「肺癌勉強会」や

わたくしのTwitter、Facebookでも紹介したいと思っています。

読んだ感想もぜひぜひお待ちしています。

それでは宜しくお願い致します。

【J-AXEL】ナブパクリタキセル!進行非小細胞肺がんの2次治療以降で新たな選択肢

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『Phase 3 trial comparing nab-paclitaxel with docetaxel for previously treated advanced non–small cell lung cancer』(JTO 2021, in press)より

まとめ

  •  進行非小細胞肺がんの2次治療以降でナブパクリタキセルはドセタキセルと比較して全生存期間で非劣性。

要約

〇既治療進行非小細胞肺がんに対するパブパクリタキセルの効果と安全性を評価した。

〇本研究は無作為化、オープンラベル、非劣性、第III試験であり、殺細胞性抗がん剤で既治療の進行非小細胞肺がん症例を登録した。

〇症例は1:1で

 -ドセタキセル 60mg/m2(day1)

 -ナブパクリタキセル 100mg/m2(day1,8,15)

の21日サイクルに振り分けられた。

〇主要評価項目はITT集団で解析された全生存期間とした。

〇503例が無作為化され、全生存期間の中央値は

 -ナブパクリタキセル群(252例) 16.2カ月(95%CI:14.4-19.0カ月)

 -ドセタキセル群(251例) 13.6カ月(95%CI:10.9-16.5カ月)

であり、HR 0.85(95%CI:0.68-1.07)という結果だった。

〇無増悪生存期間の中央値は

 -ナブパクリタキセル群 4.2カ月(3.9-5.0カ月)

 -ドセタキセル群 3.4カ月(2.9-4.1カ月)

であり、HR 0.76(95%CI:0.63-0.92、p=0.0042)だった。

〇奏効率は

 -ナブパクリタキセル群 29.9%

 -ドセタキセル群 15.4%

であり、ナブパクリタキセルの方が組織型に関わらず有意に奏功した(p=0.0002)。

〇グレード3以上の有害事象は好中球減少がそれぞれ2%と22%、末梢神経障害が10%と1%だった。

キュート先生の視点

 非小細胞肺がんの2次治療以降に新しい治療選択肢が登場しました。九州大学の米嶋先生が非小細胞肺がんの2次治療以降でナブパクリタキセルとドセタキセルを比較した『J-AXEL試験』を発表しました。素晴らしい!

ナブパクリタキセル(アブラキサン®)は1週間毎の投与で通院や投与自体は大変ですが、1回1回の投与は有害事象も少なく、血液毒性などが出るような場合には途中の投与をSKIPできますので、医療者にとっては大変使い勝手の良い薬剤です。

本研究では主要評価項目である全生存期間がドセタキセルと非劣性であることが証明されました。

しかも無増悪生存期間や奏効率はむしろドセタキセルより良好な結果であったとして、非小細胞肺がんの2次治療以降で使用する薬剤の選択肢として間違いなく重要な報告であると考えます。

実臨床ではすでにナブパクリタキセルを広く使用しているものと考えますが、これからは堂々と患者さんにも説明できますし、おススメすることができます

米嶋先生、ありがとうございました。