キュート先生の『肺癌勉強会』

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【@Be Study】PD-L1高発現の未治療NSCLCへのアテゾリズマブ+ベバシズマブ(Medical Tribune連載より)

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医療情報サイト「メディカルトリビューン」さんの連載「みんなで肺がん注目論文 徹底検証しちゃいました」の紹介です。この企画は肺がん診療に重要な論文を、第一線で活躍される先生方とわたくしキュート先生で徹底的に検証しよう、という内容になっています。

 

連載第6回目は論文の筆頭著者で国立病院機構九州がんセンター呼吸器腫瘍科の瀬戸貴司先生に解説を頂きました。

PD-L1高発現の未治療非小細胞肺がんへのアテゾ・ベバの効果は?

Phase Ⅱ study of atezolizumab with bevacizumab for non-squamous non-small cell lung cancer with high PD-L1 expression (@Be Study)(J Immunother Cancer 2022;10:e004025)

奏効率ORRは64.1%(95%CI 47.18~78.80%)。

PFS中央値は15.9カ月(95%CI 5.65~15.93カ月)

6カ月時PFSは66.8%(同48.90~79.70%)

12カ月時PFSは54.9%(同35.65~70.60%)。

 

PD-L1 TPSの50~74%/75~100%で層別化した評価では、

 50~74%の症例ではPFS中央値が15.9カ月

 75~100%の症例では未到達

 

背景因子が異なるため横並びで比較することはできませんが、

『KEYNOTE024』でのPD-L1高発現ぺムブロリズマブ単剤の奏効率が44.8%(N Engl J Med 2016;375:1823)、ぺムブロリズマブ+プラチナ併用化学療法の効果を見た『KEYNOTE189』でのPD-L1高発現群に対する奏効率が61.4%(N Engl J Med 2018; 378: 2078-2092)と報告されているのに対し、この『@Be Study』で示された64.1%という奏効率が相当期待できる数字であることは間違いがありません。

 

実臨床ではベバシズマブを活かすことができるレジメンが限られています。今でも体腔液に対する効果や脳浮腫に難渋している症例に対してはベバに助けられている部分も大きい症例が一定数います。一次治療でABCPを開始するか、ICI単剤あるいはIO-IOからの二次治療でプラチナ併用化学療法にベバを上乗せするような場面で登場する以外では活躍できそうな状況が想像できません。

この『@Be Study』においても今後長期的な効果とともに、症例ベースでもよいので胸水や脳転移/脳浮腫に対する効果などが明らかになるとこの研究の意義がより高まるものと想像します。

 

ぜひ瀬戸先生との徹底検証を

多くの肺癌診療に携わる医療者に読んで頂きたいと思っています。

【UNICORN】EGFRアンコモン変異にオシメルチニブってどのくらい効くの?(イシヤク寄稿記事)

医師向け薬剤比較アプリ『イシヤク』内の肺癌トピックに寄稿した記事を紹介します。

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UNcommon EGFR Mutations: International Case Series on Efficacy of Osimertinib in Real-Life Practice in First-LiNe Setting (UNICORN)(J Thorac Oncol 2022;S1556-0864(22)01854-8)

進行非小細胞肺がんの治療戦略において、ドライバー変異が検出されれば、それに対応する標的療法を選択することが一般的です。EGFR遺伝子変異に対しても対応するチロシンキナーゼ阻害薬をベースとした治療が選択されますが、ガイドライン上はエクソン19欠失変異またはエクソン21のL858R変異の「コモン変異」とそれ以外の「アンコモン変異」で治療戦略が若干異なります。アンコモン変異にはG719X変異、L861Q変異、de novo T790M変異などが含まれ、「マイナー変異」とも呼ばれます。アンコモン変異はEGFR遺伝子変異のうち約10%程度を占めますが、症例数に限りがあることや様々なアンコモン変異を認めるため、決まったエビデンスがありません。

 

先日J Thorac Oncol誌にイスラエルから報告された、アンコモン変異に対する第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブの効果を評価したリアルワールドデータを紹介します。

この試験はエクソン20挿入変異(Ex20ins)を除くアンコモン変異を持つ進行非小細胞肺がん症例に対して、1次治療としてオシメルチニブを投与した症例を後ろ向きに解析した研究になります。

 

コモン変異に対するオシメルチニブの効果をみた『FLAURA試験』では、ORR 80%、PFS中央値 18.9カ月、OS中央値 38.6カ月(NEJM 2018;378:113, NEJM 2020;382:41)という結果です。したがってオシメルチニブといえどもアンコモン変異に対しては、コモン変異ほどの効果は期待できません。

またアンコモン変異に対するゲフィチニブやエルロチニブの第1世代EGFR-TKIの効果を見た報告では、EGFRアンコモン変異陽性非小細胞肺がんに対するPFS中央値は、5.0-7.2カ月とされております(Clin Cancer Res 2011;17:3812, Lung Cancer 2019;130:42)。第1世代EGFR-TKIよりはオシメルチニブの方が効果的な印象です。

 

またアンコモン変異に対する第2世代EGFR-TKIであるアファチニブの効果検証した『LUX-Lung2,3,6試験の統合解析』(Lancet Oncol 2015;16:830)では、PFS中央値 10.7カ月と比較的高い効果が報告されています。

もちろん今回紹介した報告はそれぞれ患者背景が異なりますので一概に各EGFR-TKIの効果を比較することはできません。『肺癌診療ガイドライン』でも決まった治療選択肢が示されているわけではありませんが、時々アンコモン変異やコンパウンド変異を有する肺がん症例の治療戦略に頭を悩ますことがあります。このような報告の積み重ねでEGFRアンコモン変異の治療選択の一助になれば幸いです。

 

▼まとめやコメントは『イシヤク』記事をご覧ください

【NivoCUP】原発不明がんへのニボルマブの効果(Medical Tribune連載より)

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医療情報サイト「メディカルトリビューン」さんの連載「みんなで肺がん注目論文 徹底検証しちゃいました」の紹介です。この企画は肺がん診療に重要な論文を、第一線で活躍される先生方とわたくしキュート先生で徹底的に検証しよう、という内容になっています。

 

連載第5回目は論文の筆頭著者で近畿大学内科学腫瘍内科部門医学部講師の谷﨑潤子先生氏、聖マリアンナ医科大学呼吸器内科講師の古屋直樹先生(現在留学中)に解説を頂きました。

原発不明がんに対するニボルマブの効果は?

Open-label phase II study of the efficacy of nivolumab for cancer of unknown primary(Ann Oncol 2022;33:216)

既治療群におけるORRは22.2%(95%CI 11.2~37.1%)

奏効期間中央値は12.4カ月(範囲2.8~>8.4カ月)。

無増悪生存(PFS)中央値は4.0カ月(95%CI 1.9~5.8カ月)

6カ月時点でのPFSは32%。

全生存(OS)中央値は15.9カ月(同8.4~21.5カ月)

6カ月時点でのOSは73%。

 

未治療群におけるORRは18.2%(95%CI 2.3~51.8%)

奏効期間中央値は3.7カ月(範囲2.3~5.1カ月)。

PFS中央値は2.8カ月(95%CI 1.1~6.5カ月)

6カ月時点でのPFSは27%。

OS中央値は未到達(95%CI 2.6カ月~未到達)

6カ月時点でのOSは73%。

 

PD-L1発現率、TMB、MSIといったバイオマーカーで

治療効果が予測できる可能性が示された点は、

実臨床の現場でも注目すべきポイントと考えることができます。

 

十分な他がん種の検索が行われた後に

「CUP」として診断されていますが、

医療機関によっては各臓器の専門医が不在であったり、

十分な組織学的/画像的検索が容易にできなかったりと

往々にして「CUP」とされてしまう可能性は否めません。

市中病院でのがん診療の質を保つことは

重要であることは言うまでもありません。

 

ぜひ谷﨑先生、古屋先生との徹底検証を

多くの肺癌診療に携わる医療者に読んで頂きたいと思っています。

【がん死亡が減る】受けるべき 6つの がん検診

★このポストは『国立がん研究センター 社会と健康研究センター がん検診ガイドライン』を参照にしています。

国立がん研究センターが勧める6つのがん検診

がん専門病院である国立がん研究センターが勧める

がん検診は以下の6つです。

 ①胃がん:胃透視/胃内視鏡検査

 ②大腸がん:便潜血検査

 ③肺がん:胸部X線±喀痰細胞診

 ④子宮頸がん:細胞診検査

 ⑤子宮頸がん:HPV検査

 ⑥乳がん:マンモグラフィー+視触診

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■胃透視検査(推奨グレードB)/胃内視鏡検査(推奨グレードB)

いずれの検査もがんによる死亡率を下げる証拠がある検査です。

胃透視検査は「バリウム」や「胃X線」とも呼ばれます。

バリウムを飲み込む時の誤嚥の報告がありますの。

いずれの検査も「対策型検診」「任意型検診」で推奨されています。

 

▶対策型検診:死亡率減少を目的とした検診のこと。公共の予防として行われる住民健診を指します。

▶任意型検診:人間ドックなど対策型以外の検診のこと。


■便潜血検査(推奨グレードA)

がんの死亡率を下げる証拠が十分にある検査です。

「対策型検診」でも「任意型検診」でも大腸がん検診として、免疫法での便潜血検査は強く推奨されます。

検診での大腸内視鏡検査は死亡率減少につながった、との報告はありますが、無視できない不利益があることから「対策型検診」としては勧められていません。

直腸診(肛門から指を入れて診察する)は、死亡率の低下につながらない証拠がありますので、がん検診として行うことは勧められていません。


■胸部X線検査(推奨グレードB)

一般的に「レントゲン写真」と言われる検査です。

がん死亡率を減らす証拠があり、「対策型検診」でも「任意型検診」でも行うことが推奨されています。

高危険群とは

 -50歳以上で喫煙指数(1日のタバコ本数×喫煙年数)≧600

 -40歳以上で6カ月以内に血痰(血混じり痰)があった

のことを指し、高危険群では胸部X線検査に加え、「痰細胞診」(痰を顕微鏡で見て、がん細胞のあるなしを見る検査)を併用します。

 

■細胞診検査(推奨グレードA)

■HPV検査(推奨グレードA)

いずれも子宮の入口を綿棒でこすって検査します。

 -細胞診(顕微鏡でがん細胞がいるかどうかを見る)検査

 -HPV(ヒトパピローマウイルスがいるかどうか)の検査

になります。

細胞診検査もHPV検査も浸潤がん罹患率低下の確実な証拠があります。

検査は自分で採る検査ではなく、医者が検査する方法が推奨されています。


■マンモグラフィ(推奨グレードB)

40-74歳においてマンモグラフィ(乳房のX線検査)は死亡率を減らす相応の証拠があります。

40-64歳を対象とした研究で、マンモグラフィと視触診を併用した検診が死亡率を減らす相応の証拠があります。

乳腺の超音波検査は死亡率減少を示した研究がなく、「対策型検診」として行うことは推奨されていません。

 

まとめ

がんの種類によっては早くに見つけることでがんによる死亡の可能性を防げることができます。

 

胃がん・大腸がん・肺がん・子宮頸がん・乳がんの5種類のがんと、それに関係する検診を国立がん研究センターは推奨しています。

コロナ禍になって3年が経過しようとしていますが、不要不急な病院受診が控えられてがん検診を受けていない方も多いのではないでしょうか?

 

コロナが落ち着いている時期を見計らって、がんの早期発見・早期治療とがんによる死亡を減らすために推奨されているがん検診をスケジュール通り受けて欲しいと心から願っています。

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【HOPE-005/CRIMSON】デュルバルマブ地固め療法 肺臓炎リスクをRWDで検証(Medical Tribune連載より)

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医療情報サイト「メディカルトリビューン」さんの連載「みんなで肺がん注目論文 徹底検証しちゃいました」の紹介です。この企画は肺がん診療に重要な論文を、第一線で活躍される先生方とわたくしキュート先生で徹底的に検証しよう、という内容になっています。

 

連載第4回目は今回紹介する論文の筆頭著者で千葉大学病院 呼吸器内科の齋藤 合 先生と新潟県立がんセンター 新潟病院 内科部長の三浦 理 先生に解説を頂きました。

デュルバルマブ維持 肺臓炎リスクは?

Real-world survey of pneumonitis and its impact on durvalumab consolidation therapy in patients with non-small cell lung cancer who received chemoradiotherapy after durvalumab approval (HOPE-005/CRIMSON)(Lung Cancer 2021;161:86)

CRT後に肺臓炎あるいは症候性肺臓炎を認めた患者は

全グレードでそれぞれ、83%(251例)、34%(103例)。

グレード3以上の肺臓炎は7%(21例)。

そのうちグレード5(死亡)は1%(4例)だった。

 

肺臓炎を発症した251例のうち、

217例は放射線肺臓炎、7例が免疫性肺臓炎、

27例が両者の合併と診断された。

 

CRTの開始から肺臓炎発症までの期間中央値は92日。

グレード2以上の肺臓炎が事前に出現していた患者で

デュルバルマブ地固め療法を受けた患者はいなかった。

CRT前にCT評価を行った213例のうち43例(20%)が、

効果判定の時点で肺臓炎を発症していた。

 

グレード2以上の症候性肺臓炎の発症について

危険因子として、

 ①V20が25%以上〔OR 2.37、P=0.008〕

 ②平均総肺線量MLDが10Gy以上(OR 1.93、P<0.0047)

が抽出された。

 

デュルバルマブ維持は肺臓炎のコントロールにかかっている

「PACIFIC試験」ではデュルバルマブによりPFSもOSも延長するという画期的な臨床成績が報告されています。データを見る限り実臨床では、切除不能Ⅲ期で根治的ケモラジが完遂できた症例に限れば行わない手はありません。

ただ実臨床ではケモラジ後の免疫治療において、やはり放射性肺臓炎や免疫治療による間質性肺炎の治療に関連する肺臓炎のリスクが、常に頭を悩ませていることは間違いありません。

齋藤先生は放射線治療科との連携を、三浦先生はRWDの重要性をそれぞれ強調されております。ぜひ斎藤先生と三浦先生の徹底検証を多くの肺癌診療に携わる医療者に読んで頂きたいと思っています。