医師向け薬剤比較アプリ『イシヤク』内の肺癌トピックに寄稿した記事を紹介します。
UNcommon EGFR Mutations: International Case Series on Efficacy of Osimertinib in Real-Life Practice in First-LiNe Setting (UNICORN)(J Thorac Oncol 2022;S1556-0864(22)01854-8)
進行非小細胞肺がんの治療戦略において、ドライバー変異が検出されれば、それに対応する標的療法を選択することが一般的です。EGFR遺伝子変異に対しても対応するチロシンキナーゼ阻害薬をベースとした治療が選択されますが、ガイドライン上はエクソン19欠失変異またはエクソン21のL858R変異の「コモン変異」とそれ以外の「アンコモン変異」で治療戦略が若干異なります。アンコモン変異にはG719X変異、L861Q変異、de novo T790M変異などが含まれ、「マイナー変異」とも呼ばれます。アンコモン変異はEGFR遺伝子変異のうち約10%程度を占めますが、症例数に限りがあることや様々なアンコモン変異を認めるため、決まったエビデンスがありません。
先日J Thorac Oncol誌にイスラエルから報告された、アンコモン変異に対する第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブの効果を評価したリアルワールドデータを紹介します。
この試験はエクソン20挿入変異(Ex20ins)を除くアンコモン変異を持つ進行非小細胞肺がん症例に対して、1次治療としてオシメルチニブを投与した症例を後ろ向きに解析した研究になります。
コモン変異に対するオシメルチニブの効果をみた『FLAURA試験』では、ORR 80%、PFS中央値 18.9カ月、OS中央値 38.6カ月(NEJM 2018;378:113, NEJM 2020;382:41)という結果です。したがってオシメルチニブといえどもアンコモン変異に対しては、コモン変異ほどの効果は期待できません。
またアンコモン変異に対するゲフィチニブやエルロチニブの第1世代EGFR-TKIの効果を見た報告では、EGFRアンコモン変異陽性非小細胞肺がんに対するPFS中央値は、5.0-7.2カ月とされております(Clin Cancer Res 2011;17:3812, Lung Cancer 2019;130:42)。第1世代EGFR-TKIよりはオシメルチニブの方が効果的な印象です。
またアンコモン変異に対する第2世代EGFR-TKIであるアファチニブの効果検証した『LUX-Lung2,3,6試験の統合解析』(Lancet Oncol 2015;16:830)では、PFS中央値 10.7カ月と比較的高い効果が報告されています。
もちろん今回紹介した報告はそれぞれ患者背景が異なりますので一概に各EGFR-TKIの効果を比較することはできません。『肺癌診療ガイドライン』でも決まった治療選択肢が示されているわけではありませんが、時々アンコモン変異やコンパウンド変異を有する肺がん症例の治療戦略に頭を悩ますことがあります。このような報告の積み重ねでEGFRアンコモン変異の治療選択の一助になれば幸いです。
▼まとめやコメントは『イシヤク』記事をご覧ください