『Survival impact of treatment for chronic obstructive pulmonary disease in patients with advanced non‑small‑cell lung cancer』(Sci Rep 2021;11:23677)より
まとめ
- COPD治療はCOPD合併肺がんの予後を改善する
キュート先生の視点
京都大学の呼吸器チームから興味深い研究が発表されました。
COPDは肺がんの併存症として有名ですが、その予後やCOPD治療が肺がんに与える影響についてはほとんどわかっていません。今回取り上げた論文は、2007年から2014年の間に京都大学病院で進行非小細胞肺がんで化学療法を行っている非小細胞肺がん症例550例を後ろ向きに集積して検討した研究です。
550例のうち347例が呼吸機能検査が行われており、103例が閉塞性換気障害(1秒率70%未満)の基準を満たす「COPD群」、219例が「非COPD群」に分けられました。この研究では呼吸機能検査が行われていない症例や喘息のような他の肺の病気がある方、病歴から喫煙歴が明らかでない方は研究の対象から外されています。肺がんの治療として免疫治療を行っている方は除外されています。
103例のCOPD群は男性が91.3%(非COPD群は53.9%)と多く、組織型も扁平上皮がんの割合が28.2%(非COPD群は11.9%)と高いことが特徴です。そして相対的に腺がんの割合が少ないため(57.3% vs 80.8%)、分子標的療法であるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)で治療を受けている症例の割合も減っています(35.0% vs 59.8%)。
「COPD群」と「非COPD群」の肺がんの予後が検討されています[図1]。
[図1:COPD合併非小細胞肺がんの生存率(文献から引用。一部追記。)]
「COPD群」と「非COPD群」を比較すると、
生存期間の中央値:10.6カ月 vs 16.8カ月
で1.60倍(p=0.0002)非COPD群が生存期間が延長することが示されました。1年生存率、2年生存率、3年生存率ともに「COPD群」が「非COPD群」を下回っており、「COPD」をもっている非小細胞肺がんでは予後不良だ、ということが分かります。
次に進行非小細胞肺がんで化学療法を受けている「COPD群」のうち、COPDに対する治療がしっかり行われている37例と行われていない66例の肺がんの予後が検討されています[図2]。
[図2:COPD治療の有無で分けたCOPD合併非小細胞肺がんの生存率(文献から引用。一部追記。)]
この論文における「COPD治療」とは、長時間作用型の気管支拡張薬と吸入ステロイドの使用のことを指しています。
もともと「COPD」を併存していること自体が肺がんの予後不良因子でしたが、「COPD治療が行われている群」と「COPD治療が行われていない群」を比較すると、
生存期間の中央値:16.7カ月 vs 8.2カ月
で0.61倍(p=0.023)「COPD治療が行われていない群」では生存期間が短縮するという結果でした。
本研究は実臨床で肺がん診療に携わっている呼吸器内科医にとっても考えさせられる報告です。
-自分の肺がん患者さんは呼吸機能検査で評価したか
-COPD治療はしっかりなされているか
と思うはずです(少なくともわたくしはそう感じました)。
京都大学の超エキスパートの先生方においても、呼吸器患者さん、特に肺がんのような疾患をもつ患者さんに「550例のうち347例」でしか呼吸機能検査が行われていないこと、そして「COPD合併肺癌103例のうち37例」でしかCOPD治療が入っていなかったことは考えさせられるべきポイントです。裏を返せば「肺がん」が診断されると、呼吸機能検査やCOPD治療の意味合いが薄れることは自分でも理解できますので、今後は意識して検査・治療を見返していこうと思います。もちろん肺がんが重篤で呼吸機能検査ができないことは差し引いて考える必要がありますし、中枢気道に肺がんが浸潤しているような場合には呼吸機能検査が修飾されてしまう可能性があることも考慮しなければいけません。
ということで、肺がん診療にあたっている皆さまへのメッセージは、
「COPDの合併は進行肺がんの予後不良因子であることは既知の通り。ただしCOPD治療はCOPD合併肺癌の予後を改善する」可能性が示されましたので、「呼吸機能検査」でCOPDの診断を、「COPD合併肺がん」症例では気管支拡張薬をはじめとしたCOPD治療を、しっかり検討しましょう
です。
それでは。
日本鋼管病院 呼吸器内科 田中希宇人(キュート先生)でした。