キュート先生の『肺癌勉強会』

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ALK陽性非小細胞肺がんにブリグチニブ(アルンブリグ®)が製造販売承認

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ALK陽性非小細胞肺がんにブリグチニブが製造販売承認

1月22日の武田薬品工業のプレスリリースです。

プレスリリースによると、

アルンブリグ®錠30㎎、90㎎(一般名:ブリグチニブ、開発コード:AP26113、以下「アルンブリグ」)について、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌を適応とする一次および二次以降の治療薬として、厚生労働省より製造販売承認を取得したことをお知らせします。

今回の承認は主に、ALKチロシンキナーゼ阻害剤治療後に増悪したALK融合遺伝子陽性(以下、ALK陽性)の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(Non-Small Cell Lung Cancer、以下、NSCLC)患者さん72例を対象とした国内臨床第2相試験であるBrigatinib-2001 (J-ALTA)およびALKチロシンキナーゼ阻害剤による治療歴のないALK陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC患者さんを対象とした海外臨床第3相試験であるAP26113-13-301(ALTA-1L)の結果に基づくものです。

 とあります。1次治療からの使用が承認されました。『肺癌診療ガイドライン2020年度版』ではALK融合遺伝子陽性の2次治療以降にブリグチニブが推奨されておりますが、

以前このブログや医療情報サイト「Medical Tribune」の寄稿記事でも取り上げました『J-ALTA試験』および『ALTA-1L試験』の結果をもって承認されたとのこと。

コンパニオン診断薬は

コンパニオン診断に関しては

アルンブリグへの適応は、ALK陽性が確認された患者さんとなります。ALK陽性を判定するためのコンパニオン診断薬として、アボットジャパン合同会社の「Vysis®ALK Break Apart FISHプローブキット」が承認されています。それ以外の体外診断用医薬品または医療機器についても順次検討を行っています。

とされています。

今後、ロルラチニブも1次治療に上がってくるとなると、症例の少ないALK陽性肺がんの治療戦略はますます頭を悩ませそうです・・・。

なぜブリ「グ」チニブ?

英語表記では「brigatinib」で「ga」なのに、日本語表記では「ブリグチニブ」で「グ」です。現在、武田に問い合わせ中ですので、少々お待ちください。

後日、武田薬品工業から回答を頂きまして・・・

 ということでした。なるほど。

【WJOG9516L】ALK陽性肺がんに対するクリゾチニブ→アレクチニブ逐次治療と初回アレクチニブの比較

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『Sequential therapy of crizotinib followed by alectinib for non-small cell lung cancer harbouring anaplastic lymphoma kinase rearrangement (WJOG9516L): A multicenter retrospective cohort study』(Eur J Cancer 2021;145:183)より

まとめ

  • クリゾチニブ→アレクチニブ逐次治療での複合治療成功期間は初回アレクチニブでの治療成功期間に比べ有意に延長したが、初回アレクチニブに対して全生存の改善効果は示せなかった。

要約

〇実臨床でのALK陽性非小細胞肺がんに対するALK阻害薬の逐次治療のデータは限られている。

〇2012 年 5 月~ 2016 年 12 月までにクリゾチニブあるいはアレクチニブが投与された ALK陽性非小細胞肺がんの臨床データを振り返ってみた。

〇初回化学療法として投与されたALK阻害薬の種類でクリゾチニブ群とアレクチニブ群の2群に分けた。

〇「複合治療成功期間(combined TTF)」はクリゾチニブ群においてクリゾチニブ投与後にアレクチニブを投与した場合のクリゾチニブのTTFとアレクチニブのTTFを足したものと定義した。

〇主要評価項目は複合治療成功期間とアレクチニブ群での治療成功期間の比較とした

〇61施設から864例が登録され、840例が解析された。

〇535例中クリゾチニブ/アレクチニブ群は305例だった。

クリゾチニブ群の複合治療成功期間の中央値は、アレクチニブ群の治療成功期間よりも有意に延長した(34.4カ月 vs 27.2カ月、HR 0.709、p=0.0044)。

〇クリゾチニブ群においてクリゾチニブで治療後にアレクチニブによる治療を受けた症例とアレクチニブ群では、全生存期間に有意差を認めなかった(88.4カ月 vs 未到達、HR 1.048、p=0.7770)。

〇全症例での検討では、クリゾチニブ群がアレクチニブ群よりも全生存期間が有意に短かった(53.6ヶ月 vs 未到達、HR 1.821、p<0.0001)。

〇クリゾチニブ群での複合治療成功期間は初回治療としてアレクチニブを使用した群の治療成功期間と比較して有意に延長したが、初回アレクチニブに対して全生存の改善効果は示せなかった。

キュート先生の視点

松阪市民病院の伊藤先生による多くの肺がん診療に携わる先生方が知りたかったデータ。

今やALK陽性非小細胞肺がんの1次治療はアレクチニブ(アレセンサ®)で誰も疑わないのですが、クリゾチニブ→アレクチニブとシーケンス治療とアレクチニブ単独治療とどっちが効果が高いのか・・・は多くの先生が疑問に思っていたはずです。

「治療成功期間time to treatment failure(TTF)」は治療開始から「全ての理由による治療打ち切り」までの期間のことを意味しますので、より実臨床に即したエンドポイントということができます。

以前の症例でクリゾチニブで治療開始した症例が数多くいらっしゃいましたが、本研究のようなシーケンス治療の全生存の結果を見ると現時点ではアレクチニブファーストが勧められます

【Medical Tribune寄稿記事】2021年医学はこうなる

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医療情報サイト『Medical Tribune』内での新春企画「私が選んだ医学2020年の3大ニュース」と「2021年医学はこうなる」に寄稿致しました。

本日は「2021年医学はこうなる」について紹介致します。

2021年医学はこうなる

この新型コロナウイルス感染症流行下において明日の状況も読めない現状ですが、呼吸器内科医であるわたくし個人が考える2021年の医療について

  1. 新型コロナウイルスワクチン
  2. ぜんそくもCOPDもトリプル
  3. 加速する肺がんの個別化医療

の3点について挙げさせて頂きました。

1.新型コロナウイルスワクチン

全世界で数多くのSARS-CoV-2に対するワクチン開発や臨床研究が行われ、実際に世界ではワクチン接種が開始されている状況です。

2021年はいち早く有効なワクチンが承認され、感染へのリスクが高い高齢者や基礎疾患のある方、そして医療従事者が優先的にワクチン接種を受けることとなります。

コロナに対する有効なワクチン接種が広く浸透すれば、コロナ禍での医療体制や感染対策の在り方もまた変わってくると思って注目しています。

2.ぜんそくもCOPDもトリプル

現在、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する3剤併用吸入療法、通称トリプル療法として2剤、喘息のトリプル療法として1剤が承認されております。

以前に比べ吸入薬も選択肢が増え治療戦略が複雑化しております。

呼吸器以外の専門の先生には分かりにくいと不評ではありますが、個人的には吸入薬の使い分けやデバイスごとのメリット・デメリット、幾つかの生物学的製剤による治療なども絡めて大変楽しみにしています。

3.加速する肺がんの個別化医療

ドライバー遺伝子変異であるMETに対してテポチニブ、カプマチニブが新しい『肺癌診療ガイドライン2020年版』にも掲載されました。

また免疫治療同士の併用療法、既存のコンビネーション治療やドライバー遺伝子変異に対する治療などと並行して肺がん治療戦略についてさらに頭を悩ませる1年になると考えています。

詳しくは『Medical Tribune』内記事を参照ください。

【Medical Tribune寄稿記事】わたくしが選んだ医学2020年の3大ニュース

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医療情報サイト『Medical Tribune』内での新春企画「私が選んだ医学2020年の3大ニュース」と「2021年医学はこうなる」に寄稿致しました。

本日は「わたくしが選んだ医学2020年の3大ニュース」について紹介致します。

 

 

私が選んだ医学2020年の3大ニュース

わたくし個人の「2020年の医学3大ニュース」として、

 

  1. 新型コロナウイルス襲来 ~世界が・医療が変わった~
  2. 肺がん治療はコンビネーション時代 ~非小細胞も小細胞も~
  3. 医療現場 業務改善への第一歩 ~大臣/副大臣とやり取りしちゃいました~

 

の3つを上げさせて頂きました。


1.新型コロナウイルス襲来 ~世界が・医療が変わった~

2020年は新型コロナウイルスと戦いの1年で他のニュースが思い浮かびません。

中国からの帰国者やクルーズ船の新型コロナウイルス感染症の対応に始まり、1年をあっという間に駆け抜けた印象です。

歴史的にもペスト、HIV、SARSなど人類と感染症の戦いであることは理解していたのですが、想像以上に厳しい事態を目の当たりにしています。

2.肺がん治療はコンビネーション時代 ~非小細胞も小細胞も~

思い起こせば数年前までは研究レベルで行われていた「免疫治療」でありますが、このようにどの医療機関でも幅広く行われている現状を誰が想像したでしょう。

進行肺がん症例に対し慎重に検討に検討を重ね、1例目のニボルマブ(オプジーボ)を投与したことを覚えていますが、今や毎日のように免疫治療を行っている現状に時代の流れの速さを感じます。

3.医療現場 業務改善への第一歩 ~大臣/副大臣とやり取りしちゃいました~

3つ目のニュースは個人的に医者人生最大の出来事を取り上げました。

感染対策に神経を研ぎ澄ましている状況において、医療現場で日々目にする手書きの報告書やFAXでのやり取りはとても違和感がありました。

わたくしのTwitter発信を河野太郎防衛大臣、平将明内閣府副大臣(いずれも当時)が取り上げて下さいました。

非効率な業務を見直し、国全体でデジタル化へと大きく舵を切る方向に動くこととなったこと一連の出来事は世界ではNew York Times紙や米・CNNで取り上げられ、日本でも多くのメディアで話題となり、自分史上最大のニュースの1つとなりました。

詳しくは『Medical Tribune』内記事を参照ください。

明日は引き続き「2021年医学はこうなる」について紹介致します。

【CheckMate9LA】ニボルマブ+イピリムマブ+化学療法2サイクル併用療法は全生存期間を有意に延長

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『First-line nivolumab plus ipilimumab combined with two cycles of chemotherapy in patients with non-small-cell lung cancer (CheckMate 9LA): an international, randomised, open-label, phase 3 trial』(Lancet Oncol 2021, published Jan. 18)より

まとめ

  • 進行非小細胞肺がんの1次治療でニボルマブ+イピリムマブ併用療法に2サイクルのプラチナ併用化学療法の追加で全生存期間が有意に延長

要約

〇進行非小細胞肺がんに対する1次治療としてニボルマブ+イピリムマブ(ニボイピ)併用療法は全生存期間を改善することは示されている。

〇2サイクルの化学療法の追加がこのニボイピ併用療法に臨床的な上乗せ効果があるか調査した。

〇本研究は19の国、103施設で行われた無作為化、オープンラベル、第3相試験である。

〇18歳以上、未治療、組織学的に確定したステージIV/再発非小細胞肺がんでPS0-1の症例が組み込まれた。

〇症例は無作為に1:1で

 -ニボルマブ(360mg、3週毎)+イピリムマブ(1mg/kg、6週毎)+プラチナ併用化学療法(3週毎、2サイクル)群

 -化学療法単独(3週毎、4サイクル)群

に振り分けられた。

〇腫瘍の組織型、性別、PD-L1発現率によって層別化された。

〇主要評価項目は全生存期間とし、安全性は治療された全症例で評価された。

〇結果は主要評価項目が確定した中間解析時と、探索的な長期フォローアップ解析で報告する。

〇2017年8月から2019年1月までに1150例が登録され、719例が試験に組み込まれた。

〇ニボイピ+化学療法併用群に361例、化学療法単独群に358例振り分けられた。

〇フォローアップ期間の中央値9.7カ月での中間解析での全生存期間は

 -ニボイピ+化学療法併用群 14.1カ月(95%CI:13.2-16.2)

 -化学療法単独群 10.7カ月(95%CI:9.5-12.4)

で有意に併用群の全生存期間が延長した(HR 0.69、96.71%CI:0.55-0.87、p=0.00065)。

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[Figure2:全生存期間の生存曲線(上記文献より)]

〇フォロー期間を3.5カ月延長した13.2カ月時点の解析では全生存期間は

 -ニボイピ+化学療法併用群 15.6カ月(95%CI:13.9-20.0)

 -化学療法単独群 10.9カ月(95%CI:9.5-12.6)

だった(HR 0.66、95%CI:0.55-0.80)。

〇奏効率は

 -ニボイピ+化学療法併用群 38.2%

 -化学療法単独群 24.9%

であり、6カ月時での効果を認めている症例の割合は73% vs 45%、12カ月時では49% vs 24%だった。

〇各項目での層別化したサブグループ解析では組織型、肝転移、骨転移、中枢神経系転移、PD-L1発現率に寄らず、点推定値は併用群に寄っていた

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[Figure3:全生存期間のサブグループ解析(上記文献より)]

〇頻度の高いグレード3/4の有害事象は好中球減少(7% vs 9%)、貧血(6% vs 14%)、下痢(4% vs 1%)、リパーゼ上昇(6% vs 1%)、無力症(1% vs 2%)だった。

〇重篤な治療関連有害事象は全グレードで併用群に106例(30%)、化学療法単独群に62例(18%)認めた。

〇治療に関連する死亡は

 -ニボイピ+化学療法併用群 7例(2%)

 -化学療法単独群 6例(2%)

認め、併用群では急性腎不全、下痢、血液毒性、肝炎、肺臓炎、急性腎障害による敗血症、血小板減少がそれぞれ1例ずつの原因であった。

キュート先生の視点

昨年のNEJMに報告されたニボルマブ+イピリムマブ併用療法の『CheckMate227試験』の初期増悪を抑えるため、2サイクルのプラチナ併用療法を追加した『CheckMate9LA試験』の結果が論文化されました。

免疫療法の長期生存効果とプラチナ併用化学療法の切れ味の良いトコ取りしたレジメンですが、Figure2の生存曲線をみますと通して併用療法が上を走っていることが分かります。

初期増悪を抑えるために化学療法を短期間だけ併用するため、殺細胞性抗癌剤の長期的な骨髄抑制や腎機能悪化や体力的に削られる面でも、化学療法と免疫治療を長く継続する従来の複合免疫療法と異なり患者さんに優しいレジメンと捉えることができます。

論文中に示されている、3.5カ月の延長した全生存期間の生存曲線をみても、1.5年以降も2群間は大きく離れており、この『CheckMate9LA試験』が長期にわたって有用であることが分かります。

またサブグループ解析でも組織型、中枢神経系転移、PD-L1発現率に寄らず併用療法が効果を示しているので、比較的幅広い症例に適応があると考えられます。

本研究は第3試験で示された結果で高いエビデンスレベルを誇りますが、既存の複合免疫療法(ケモコンボ)に比べ長期データがないこと、他のケモコンボや『KEYNOTE024試験』でのぺムブロリズマブ単剤と比較したデータではないことは慎重な判断が必要です。

実臨床では、化学療法が長期では投与しにくいけれども切れ味のある効果を期待したい、PD-L1が低発現や無発現であるがケモコンボを活かしたい、などというような症例にはいい適応なのでは、と考えています。