キュート先生の『肺癌勉強会』

肺癌に関連するニュースや研究結果、日常臨床の実際などわかりやすく紹介

COVID-19と診断されたがん症例の診断前4週間のがん治療は死亡リスクと関連なし

肺癌, 肺癌勉強会, 新型コロナウイルス, COVID-19

『COVID-19 mortality in patients with cancer on chemotherapy or other anticancer treatments: a prospective cohort study』(Lancet Published Online May 28, 2020)より

まとめ

  • COVID-19を発症したがん症例の、COVID-19診断前4週間でのがん治療は死亡リスクとは関連がない。

要約

〇UKでコロナPCRでCOVID-19と診断されたがん患者800例の検討

〇年齢の中央値は69歳、56%が男性、併存症は高血圧 31%、糖尿病 16%、心疾患 14%、慢性閉塞性肺疾患(COPD) 8%。

〇登録された主ながんの種類は消化器がん 19%、乳がん 13%、肺がん 11%、男性生殖器がん 10%、リンパ腫 8%、他の血液がん 14%、中枢神経系がん 2%であった。

〇COVID-19診断前4週間でのがん治療は

 -治療なし 34%

 -化学療法(抗がん剤) 35%

 -放射線治療 10%

 -標的療法 9%

 -ホルモン療法 8%

 -免疫療法 6%

であった。

〇経過で28%(800例中226例)が死亡しそのうち93%が新型コロナに起因した。

〇単変量解析では「年齢」「性別」「併存症(心血管疾患、高血圧)の有無」が全死亡と関連した。

〇多変量解析ではCOVID-19診断前4週間での化学療法、ホルモン療法、免疫療法、放射線治療、標的療法などのがん治療は全死亡と関連がなかった

キュート先生の視点

UKの『UK Coronavirus Cancer Monitoring Project』で新型コロナウイルスPCRで確定診断された「がん患者さん+COVID-19」800例の詳細な前向き研究の報告で信頼度も高い。対象は3/18-4/26までの約1か月ちょっとで集められて、即解析されている。

単変量解析では「年齢」「性別」「高血圧、心血管疾患などの併存症」が全死亡と関連しており、肺がんはオッズ比OR 1.5で死亡とは直接の関連は示されなかったことは肺がん患者さんにとっては朗報と言えよう。

中国の105例のがん患者さんと非がん患者さんを比較した報告では「肺がん」自体が重症化リスクとして挙げられていた(Cancer Discovery 2020)が、本研究では示されていなかった。

またがん治療に関しても本研究ではCOVID-19診断前4週間以内のがん治療は死亡には直接の関連はなかったとされており、それも今後のがん診療に生きることであろう。過去には中国で28例のCOVID-19と診断されたがん症例の解析で「診断14日以内の抗がん剤」が重症化リスクと指摘されていた(Ann Oncol 2020)が、本研究の方が圧倒的に症例数が多く、信頼性が高いものと捉えることができる。

いずれにせよ新型コロナウイルス感染症の世界での状況と現在の日本の状況を比較し、単純に本研究の結果を当てはめて良いわけではないが、がん治療中のがん患者さんにとっては少し安心できる結果であったのではと思われる。しかしながらUKでは高い死亡率(28%)となっており、本邦でも各国のようなパンデミックの状況で医療崩壊が起こった場合には、がん診療に携わる医療者やがん患者さんの立場からは悠長なことは言っていられないのではとも捉えることができる。

いずれにしても今後も医療者もがん患者さんも「プラス感染対策」を念頭に置き、無理のない診療体制の上、がん患者さんの不利益がないように診療に当たりたい。