キュート先生の『肺癌勉強会』

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EGFR遺伝子変異陽性の非腺癌-非小細胞肺癌症例の予後予測因子(JJCLCRデータベースより)

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『Key prognostic factors for EGFR-mutated non-adenocarcinoma lung cancer patients in the Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry Database』(Lung Cancer 2020;146:236)より

まとめ

  • EGFR陽性非腺癌-非小細胞肺癌症例は悪性胸水や遠隔転移が多い傾向
  • EGFR陽性非腺癌-非小細胞肺癌症例でEGFR-TKIの使用は有意に全生存期間を延長

要約

〇EGFR遺伝子変異陽性の非腺癌-非小細胞肺癌症例に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果についてはデータがない。

〇本邦でのJapanese Joint Committee of Lung Caner Resistry Databeseから、組織学的に診断された12320例の肺癌症例を後ろ向きに解析した。

〇EGFR陽性の肺腺癌1709例と非腺癌-非小細胞肺癌77例で比較検討。

〇非腺癌-非小細胞肺癌症例は50.6%が扁平上皮癌、9.1%が大細胞癌、5.2%が線扁平上皮癌、31.2%がundifferentiatedであった。

〇非腺癌症例では「男性が多い」「悪性胸水が多い」「遠隔転移が多い」傾向。

〇EGFR陽性肺腺癌は非腺癌に比較して全生存の中央値が長い傾向(29.5カ月 vs 19.5カ月、HR 1.3、95%CI:0.97-1.8)。

〇第1世代EGFR-TKIで治療を受けたEGFR陽性肺腺癌と非腺癌を比較すると全生存の中央値に有意差は認めなかった。

EGFR陽性の非腺癌-非小細胞肺癌症例において、EGFR-TKIの使用は有意に全生存期間の中央値を延長させた(25.5カ月 vs 7.5カ月、HR 4.5、p<0.001)

〇EGFR遺伝子変異タイプ別では非腺癌-非小細胞肺癌症例においてDel19ではOS中央値が未到達であったのに対し、L858Rでは15.5カ月であり有意差をもってDel19が延長した(p=0.002)。

キュート先生の視点

慶應の小林けいご先生がなされた本研究のステキなところは、今まで『肺癌診療ガイドライン』でも全くエビデンスがない、と言いますか記載のなかった「EGFR陽性の非腺癌」に対するデータが出たということです。EGFR陽性の非腺癌-非小細胞肺癌であれば、EGFR-TKIを使用することでOSの延長を得られる、という結論は素晴らしいことだと思います。

約半数が扁平上皮癌の症例ではありますが、実臨床ではそもそもEGFR遺伝子変異の検索提出していない可能性があります。本試験をもとに、『肺癌診療ガイドライン』に1行でも文言が加わる場合には、むしろ積極的にEGFR遺伝子変異を探しに行くことができる可能性があります。

今後、検討が必要なのは、本研究でも非腺癌のEGFR遺伝子変異においても、deletion19とL858R変異において治療効果が異なるとのことで、今後の細胞レベルでも、臨床的にも生化学的に異なる性質の癌であることが分かればオモシロイです。

また悪性胸水や遠隔転移が多い傾向にあるということも分かったので、あまり遠隔転移しないはずの扁平上皮癌に多数の遠隔転移を認める場合には、ぜひEGFR遺伝子変異を検討して、EGFR-TKIが使用できるチャンスを作ることができれば、と個人的に考えています。