キュート先生の『肺癌勉強会』

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間質性肺炎のある非小細胞肺がんに対する免疫治療

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『Association of immune‑related pneumonitis with the presence of preexisting interstitial lung disease in patients with non‑small lung cancer receiving anti‑programmed cell death 1 antibody』(Cancer Immunology, Immunotherapy 2020;69:15)より

まとめ

  • 間質性肺炎のある非小細胞肺癌に対する免疫治療で免疫関連間質性肺炎が発生する頻度は高い。

要約

〇間質性肺炎のある症例に対する抗PD-1抗体の安全性は不透明である。

〇抗PD-1抗体で治療された非小細胞肺癌での、もともとの間質性肺炎の存在と免疫関連間質性肺炎の発症率、画像パターン、効果について後ろ向きに検討した。

〇本研究に331例が登録され、17例でもともとの間質性肺炎を認めた。

もともと間質性肺炎のある症例ではない症例に比較して、肺臓炎を起こす頻度が高かった(29% vs 10%、p=0.027)。

〇間質性肺炎のある症例での肺臓炎は

 -2例(40%)がDADパターン

 -1例(20%)がOPパターン

 -1例(20%)がHPパターン

 -1例(20%)がその他 だった。

〇間質性肺炎がない症例での肺臓炎は

 -19例(61%)がOPパターン

 -8例(26%)がHPパターン

 -3例(10%)がDADパターン

 -1例(3.2%)がその他 だった。

〇抗PD-1抗体投与から肺臓炎が起こるまで、間質性肺炎のある症例では1.3カ月(0.3-2.1カ月)、間質性肺炎のない症例では2.3カ月(0.2-14.6カ月)だった。

〇間質性肺炎のある症例において抗PD-1抗体を使用する際には投与から最初の3カ月は注意深く肺臓炎の発生を観察するべきである。

キュート先生の視点

本研究では抗PD-1抗体を使用した全331例で約11%の免疫関連間質性肺炎を発症し、もともと間質性肺炎の合った症例では29%、なかった症例では9.9%の発症率というデータでした。「既存の間質性肺炎」の存在は肺臓炎になってしまうリスクと有意に関連がありました(ハザード比 4.4 95%CI:1.5-10)。

従来より間質性肺炎合併肺癌に対する薬物治療で最も注意しなければいけない有害事象が間質性肺炎の急性増悪であり、もともと間質性肺炎のある肺癌症例の化学療法による間質性肺炎の増悪率は5-20%、致死率は30-50%と高い割合であることが知られています。

間質性肺炎の中でも特発性肺線維症IPFは化学療法に伴う急性増悪や治療関連死亡の割合が高いことも知られています(JTO 2011;6:1242)。

添付文書上、間質性肺炎を合併する症例に対する投与が推奨されない薬剤としてはイリノテカン、アムルビシン、ゲムシタビンが有名です。また免疫治療においても、添付文書では「慎重投与」に位置付けられておりますので、1次治療を含めフロントラインで間質性肺炎の併存する肺癌症例に積極的に使用することはためらわれる現状があります。

本研究を踏まえ、もし間質性肺炎合併非小細胞肺癌に対し、抗PD-1抗体を使用する際には患者さんや家族への十分な説明と増悪に備えた慎重なフォローが必要であることは言うまでもありません。